No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

焼ニシュラン -2013-

『焼ニシュラン』として1年を振り返るのも今回で3回目。
2013年は関西方面への進出をはじめ、和牛というものへより深く関わりを持つことができた年でもあった。
もはや自分自身では抑えることができないほど膨れ上がってしまった和牛・お肉への欲求。
それをどこまでも満たしてくれる環境との出会い。
あと50年お肉を食べ続け、その時に過去を振り返ったとしたら、2013年は私の和牛人生にとってきっと転機となる1年であったはずだ。
そういった2013年をこれから振り返りたいと思うのだが、この『焼ニシュラン』では1年間で私が特に感銘を受けたお店だけを書かせていただくので、どんなに素晴らしく個人的に好きなお店でも2013年に訪問していなければここに載せることはできないし、訪問していたとしてもたまたま感動が薄ければ載せておらず、逆もまた然りだ。
★★★【このお店の存在自体が奇跡だと思う】
[よろにく]
表参道の駅から徒歩で15分程度だろうか。
アパレルショップやオフィスビルが並ぶ高級感に、どこかレトロ感を散りばめた街並みの南青山骨董通りから路地を1つ入るとそのお店はある。
お店の入り口は店名が書かれているだけで、一見するとそこが焼肉屋さんだとは分かり難いのだが、その入口をくぐり地下1階にあるお店に辿り着ければ、そこが肉の殿堂であることを知るはずだ。
"よろにく"では、アラカルトで好きな部位を好きなだけ食べるのも良い。
だが、もし"よろにく"の真髄を味わいたいのであればコースが断然オススメである。
炙りやセンマイ刺しといった前菜から始まり、塩系、タレ系の焼物はもちろんポン酢や黄卵で食べるバリエーション豊かな味付け、さらに部位や味付けにあわせたカットの妙をも楽しめる。
肉以外にもキムチやナムル、途中にはお吸い物、〆にはコシのある手延べ素麺、ふわふわのカキ氷まで、既存の焼肉屋さんでは考えられないような一切隙のない計算し尽くされた完成度のコースになっている。
通常のコースを食べて、その先の世界へ一歩踏み込む勇気のある方の為には、究極のおまかせコースが存在している。
ベースはあくまでも焼肉なのだが、和食や洋食とのテイストをより強く取り入れ、驚きと味わいによる感動が約束されている。
これらのコースを支えているのは、老舗の"日山"を中心に仕入れられている極上の雌の黒毛和牛、確かな技術を持った職人、そして飽くなき探究心で焼肉という範疇を超えて完成された肉料理へと変貌させるオーナーのVANNEさんの存在だろう。
あえて言わせてもらうと、2013年末現在、ここ"よろにく"を超えるお店には出会ったことがない。

★★【一度でも食べれば完全にお店の虜になってしまう】
[ゆうじ]
店主である裕師さんは、まだまだ若いが料理人としてはすでに円熟の域に達しているのではないだろうか。
ホルモンを主体と素材のポテンシャルを最高潮に引き出すカットと味付けは、たゆまぬ研究と天性のセンスによるものだろう。
"ゆうじ"のホルモンは、素材そのものの鮮度を含めた質の高さはもちろん、丁寧な下処理で臭みなど一切感じられず、食感と瑞々しさが際立っている。
また、その味付けもバリエーションが豊富で、塩やタレだけでも数種類のパターンがあるのも魅力の一つだ。
"ゆうじ"に通い詰めれば詰めるほどその世界が広がるのがお任せ。
シンプルな焼き物だけでなく、『料理人』である裕師さんの手によって作り出される料理は食べる者の心と胃袋を鷲掴みにするだろう。

[KIM]
"KIM"の凄みはまずお肉。
5番の雌の中でも旨みのしっかりした極上品が取り揃えられているが、それを最も感じやすいのが厚切りのサーロイン。
このサーロインの脂の質と赤身の旨みで"KIM"で扱っている肉質が分かるだろう。
そして、もう一つの凄みが料理長の存在。
料理長の吉田さんは、素材に対する目利き、それを見事に昇華させる確かな技術、そしてお任せコースに盛り込まれる肉料理の数々を生み出す発想を持っているのだ。
タレはオーソドックスなそれというよりはワイン等を飲む方によりあわせた味付けではないだろうか。
なので、肉を楽しむという以外にも、ワイン片手におしゃれな焼肉を楽しみたい方にもオススメだ。
(私自身は全くアルコールが飲めないが。。。)

[七厘]
"七厘"ほど店主の存在感を感じるお店も珍しい。
1頭買いしている雌の黒毛和牛は、店主である中原さんの御眼鏡に適った極上物だけが仕入れられ、驚くほど絶妙な状態まで出される。
その状態とは旨みが濃縮するかのような水分の飛ばし具合。
これぞ昔から日本の牛肉文化を支えてきた『枯らし』と呼ばれる熟成ではないだろうか。
また口の中で一切筋が引っかからないのも"七厘"の特徴だ。
同業者から信じられないほど贅沢に掃除されたお肉は、厚さも完璧に計算されたものだ。
"七厘"の焼肉は至極シンプルなのだ。
だがこのシンプルさを真似できるお店が出てこない。
ここに"七厘"の、中原さんの凄さが表れている。

[Cossott'e SP]
2013年3月オープン。
今年オープンしたお店の中では飛び抜けた存在になっている。
弦巻の"コソット"の2号店で、尚且つ店主の込山さんがカウンターの内側でもてなしてくれることを考えれば当たり前かもしれない。
肉質に関して言えば、文句無しで都内屈指。
超のつく高級ステーキ屋さんで出されるものに勝るとも劣らない。
1頭買いの為様々な部位が食べれるが、カットや味付けがほぼ全て違うのも凄い。
サーロインのようなメジャーな部位から外モモやスネといった一般的には焼肉で食べないような部位を塩麹に浸けたり計算された隠し包丁をいれることで、感動するような焼肉に仕上げてくれる。
また席に関しても、テーブル席はゆったりとした幅で贅沢な作りだ。
だが、もし2名で行くのであればぜひカウンターに陣取って欲しい。
何気なくやっているようで実は完璧に計算された込山さんの仕事を見ていると、このライブ感がより一層気持ちを高ぶらせてくれる。
常に混んでいるイメージがあるが、場所柄なのか土日は比較的入りやすいようなので、土日の焼肉には絶好の穴場である。

[ジェット]
焼肉屋さんの一つの完成形が兵庫県の芦屋にある。
メニューはコース1本(追加あり)で、カウンターのみ10席程度の店内では全てのお肉を店主の野間さんがカウンター内から焼き上げる。
「自分が焼いた方が絶対に美味しいから。」という野間さんの言葉に、自分が繰り出すお肉を最高の状態で食べて欲しいと願うお肉への愛情をひしひしと感じる。
薄切りのタンには有馬山椒、脂の強い中落ちカルビはトロロ出汁に潜らせて、アカセンは西京漬けにしたりと、とにかく1品1品違った味付けで口に中に飛び込んでくる。
そしてその味付けは斬新であり、かつ計算し尽くされている。
ここまでで既にコース焼肉としては他に類を見ないレベルなのだが、更に驚かされるのがCP。
数種類の中から選べる〆のメニューまで含めて3,800円(2013年11月訪問時)!
様々な部位を違った味付けで仕上げたコースを店主自ら最良の焼き加減で提供してくれ、しかも信じられない価格設定。
真似したくて真似できない。
肉好きならば、この焼肉界の1つの頂にぜひ登るべきだ。

★【自分だけでこの感動を味わっていいのだろうか】
[ジャンボ 篠崎本店/本郷店/はなれ/白金店]
2013年はついにはなれがオープンして全部で4店舗になった"ジャンボ"。
今年は4店舗全てに行ったが、その全ての店舗が★という恐るべきポテンシャルを感じさせてくれる。
特定のブランド牛に拘らず、その時々で最上の品質のお肉を仕入れ、その食感を最大限楽しめる絶妙なカット、秘伝のタレで食べる。
その独特なスタイルは、焼肉という範疇を超え、"ジャンボ"というジャンルが存在するかのような錯覚すら覚える。
だが、4店舗は"ジャンボ"らしさという本道を守りつつも、それぞれ違った風土で醸成された世界観を持っている。
これこそが"ジャンボ"の本当の凄さなのかもしれない。

[虎の穴]
一昔前に比べて、鮮度の良いホルモンが食べれるお店はかなり増えた。
そんな中、ホルモンの鮮度は勿論、カットや味付けで他を寄せ付けないのが、"ゆうじ"とこの"虎の穴"。
火を入れることで素材に眠った旨みや食感を最大限引き出そうとするそのスタイルは、ホルモン道を極めんとする"虎の穴"らしいもの。
そしてもはや伝説的なハラミ。
積み重ねられた経験と知識、そしてホルモンにかける強烈な思い。
流行の焼肉屋さんやホルモン屋さんに行き尽くした人こそ、"虎の穴"へ帰ってみて欲しい。

[金竜山]
2012年は酸味が強過ぎて肉とミスマッチなタレの印象があり、『焼ニシュラン』の載せなかったが、2013年訪問時はかつての爆発力のあるタレに戻っていた。
肉質が強調されがちな"金竜山"だが、特筆すべきはやはりタレ。
ニンニクが効いていて、タレ自体から肉の旨みが発するような不思議な味わいなのだ。
並・中・上・特上と4種類用意されたカルビは立派な霜降り肉で、タレによってその持ち味をさらに30%増しに。
テーブルわずか4席で1日2回転から回転。
そして昭和の焼肉屋さんを彷彿させるノスタルジックな店構えにお店のお母さん。
お金では買えないこの全ての要素が相まって日本一予約の取れない焼肉屋さん"金竜山"が完成するのだ。

[くにもと 本店]
誰にでも勧められるお店ではない。
店主の焼肉への思いを受け止めてくれる人にこそ勧めたいのだ。
最初の盛合せルール、人数制限、お酒の種類の少なさ等。
他のお店ではこんなことをしたら、、、
しかし、"くにもと"は違う。
連日"くにもと"の焼肉を愛するお客さんが押しかけるのだ。
全てのワガママは、美味しい焼肉を食べてもらう為のものなのだろう。
かく言う私も"くにもと"の焼肉にどっぷりとはまってしまっている。

[焼肉屋さんのしみず]
田村牛を始めとした最上級の雌牛を信じられないCPで提供してくれるお店がある。
一番のお勧めはザブトンやミスジ、トウガラシ等の肩のお肉で構成された5種盛りで、価格は2,200円(2014年1月現在)だ。
それだけではなく、タンやハラミを始めとしたホルモンもレベルが高い。
最上級の素材はひたむきな仕入れ努力、我が目を疑うような価格設定は家族総出によるコスト削減によって"しみず"が出来上がっている。
もはや場所の不便さ以外は欠点が見つからない奇跡のお店かもしれない。

[コバウ]
肉好きの勝手な偏見で言わせてもらうと、銀座に旨い焼肉屋さんはない。
銀座は旨いステーキなら日本一の場所かもしれないが、こと焼肉で考えると不毛の地である。
そんな先入観を見事に打ち砕いてくれたのが"コバウ"だ。
できるだけ生産者まで指定して仕入れている肉は本当に凄い。
中でも岩手の佐々木(譲)さんや鳥取の田村さんの肥育した個体に遭遇した時などはその幸運に震えることさえある。
お店自体は試行錯誤意を繰り返しており、2013年の途中から訪問頻度が落ちたが、ポテンシャルは非常に高いお店なので今後が楽しみだ。

[すどう]
浜松町の名店"くにもと"で7年修行した店主の須藤さんが2012年に独立したお店である。
そのスタイルは修行した"くにもと"らしさを感じさせるハイレベルな技術と新たな焼肉の可能性を模索する試みが同居している。
お皿の上から溢れ出す須藤さんの探究心を感じながら、その全てを受け止めてみて欲しい。
どんなに疲れた日であっても、顔から笑みが漏れてしまうだろう。

[かつじい]
全国津々浦々から仕入れる極上の牛肉。
全国の生産者を知り尽くした店主が繰り出す品々は驚きが耐えない。
可能であれば生産者の違う同じ部位で食べ比べをさせてもらおう。
今まで感じることの出来なかった新しい世界が広がるはずだ。

[ヘレ専門店 きみや]
強烈な個性という店では全国トップレベル。
いかにも肉が好きそうな店主が笑顔でもてなしてくれる。
そして注文しなくてもデフォルトで運ばれてくるヒレ肉は1人400g。
詳細はあえて書かないが、心して車で向かっていただきたい。