No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

焼ニシュラン -2014-

基本的にこのブログではお店にランキングをつけていないが、1年に1度、その年に食べたお店の食べた料理だけを基準として、特に感動したお店をピックアップし、☆から☆☆☆まで簡単な自分の中でのランキングを発表したい。
つまり、この『焼ニシュラン』では1年間で私が特に感銘を受けたお店だけについて書いているので、どんなに素晴らしく個人的に好きなお店でも2014年に訪問していなければここに載せることはできないし、訪問していたとしてもたまたま感動が薄ければ載せておらず、逆もまた然りだ。
☆☆☆【このお店の存在自体が奇跡だと思う】
[よろにく]
2011年からランキングである『焼ニシュラン』を始めて、唯一4年連続☆☆☆を取り続けているのが”よろにく”だ。
扱う素材は山形牛を中心とした雌の黒毛和牛のみで、老舗の精肉店”日山”が”よろにく”の為にセリ落とした肉が運ばれてくる。
“よろにく”に通い出した頃、”よろにく”ほど厳選した肉を使っているのは都内の高級ステーキ屋さんくらいであったが、正直ここ2,3年は”よろにく”に近いレベルの肉を仕入れる焼肉屋さんが僅かであるがでてきている。
それでも”よろにく”の存在が霞まず、揺るぎないのは、主役である最高の肉を活かすカットや和食のアレンジを加えた完成度の高い肉料理の数々によるところも大きい。
もし、あなたが”よろにく”を体験したことがないのであれば、まずは通常のコースをオススメしたい。
前菜から塩系やタレ系の焼き物、途中のお吸い物、〆の手延べそうめんにデザートのかき氷に至るまで、口の中に入れた瞬間の食感まで計算され尽くした流れのあるコースの真髄を感じることができるだろう。
もちろん、アラカルトで好きな部位だけ注文するのもアリだ。
全て厳選された肉が仕入れられているので、”よろにく”の焼肉屋さんとしてのポテンシャルを知ることができる。
これらを何度か体験し、その先の世界へ一歩踏み込む勇気のある方の為には、究極のおまかせコースが存在している。
ベースはあくまでも焼肉なのだが、和食や洋食とのテイストをより強く取り入れ、驚きと味わいによる感動が約束されている。
また松茸や白トリフといった高級食材を惜しげもなく使用し、主役である肉を如何に引き立たせるかに全力で取り組んでいるのが分かる。
私はいつもおまかせコースをお願いするが、それを味わうたびに、他の追随を一切許さない”よろにく”の素晴らしさに感動する。

[KIM]
ここ”KIM”のお任せも、常識を超えた感動がある。
特に2014年は今までの常識を完全に破壊する程のインパクトで、肉の旨さを堪能しまくる至高のコースであった。
“KIM”のお任せは、料理長の吉田さんの舞台。
ベースとなる焼肉は、当然最高で、肉質やカットは非の打ち所がなく、特に厚切りのサーロインやシャトーブリアンを食べると、如何に拘った仕入れをしているかが分かる。
焼肉に工夫を加えて肉料理に昇華させたメニューには、ハンバーガー、カツ、ステーキ、ハンバーグ、すき焼き等、専門店を凌駕するレベル。
特に2014年はフォアグラ入りのハンバーグには身をよじらせるしかなかった。

[七厘]
その伝説は荒川区の三ノ輪にある1軒の焼肉屋で始まった。
決して便利な場所とは言えないその焼肉屋は、おしゃれな外観や店内というわけではない。
ブランド牛を前面に押し出しているわけでもなく、奇を衒ったメニューを出しているわけでもない。
しかし、店主・中原さんの渾身の焼肉を目当てに都内といわず全国、いや海外からも肉好きが集まり、その焼肉屋は連日満席であった。
肉はブランドに拘ることなく、1頭1頭見極め、自分が納得した個体のみを仕入れる。
仕入れた肉はすぐには出さない。
枝肉のまま肉屋の冷蔵庫で寝かし、余分な水分を枯らし、旨みを凝縮させる。
この寝かし具合の見極めが難しいのだが、中原さんの見極めは天才的で、これが絶妙すぎる。
流行のドライエイジングのような香りは付けず、甘みを感じさせる和牛香が豊かに香る。
そして牛が持っている旨みが100%引き出される。
最後はカット。
部位ごとの特徴を活かし、計算し尽くされたカットで、食べる者の心を鷲掴みにする焼肉が完成する。
しかし、この伝説第一章は2014年10月に完結した。
そして2014年11月に店名を”なかはら”と改め、市ヶ谷に新しくオープンした。
伝説第二章はここから始まる。

☆☆【一度でも食べれば完全にお店の虜になってしまう】
[ゆうじ]
店主・樋口裕師さんは、焼肉業界の中で、最も『料理人』という言葉が似合う。
日々研究を重ね、休日は全国を食べ歩く。
そんな時間が裕師さんの料理に円熟味を深めていく。
ホルモン焼きを侮るなかれ。
素材のポテンシャルを最高潮に引き出すカットと味付けは、世の中に星の数ほどある他店とは一線を画す。
"ゆうじ"のホルモンは、素材そのものの鮮度を含めた質の高さはもちろん、丁寧な下処理で臭みなど一切感じられず、食感と瑞々しさが際立っている。
また、その味付けもバリエーションが豊富で、塩やタレだけでも数種類のパターンがあるのも魅力の一つだ。
そして、"ゆうじ"に通い詰めれば詰めるほどその世界が広がるのがお任せ。
シンプルな焼き物だけでなく、『料理人』である裕師さんの手によって作り出される料理は日本料理。
素材を大事にし、胃袋と心に染み渡る料理は、食べる者の心と胃袋を鷲掴みにするだろう。

[Cossott'e SP]
店主・込山さんの目の前のカウンターはライブの最前列。
最高潮の興奮と感動に包み込まれる。
魚は築地だが、肉は芝浦。
その芝浦で最も上物を扱う仲卸”吉澤畜産”から1頭丸々仕入れるのは熟練の目利きが競り落とした極上の雌牛。
これ以上ない素材に包丁を入れ、味付けをしていくライブ感は、肉好きでなくても興奮を抑えられないだろう。
ライブ会場には、メジャーな部位であるサーロインやヒレはもちろん、焼肉屋ではまずお目にかかれない外モモやスネといった部位まで登場する。
素材の味をシンプルに味わうものもあれば、塩麹に漬けたり、細かな隠し包丁を駆使することで一般的には硬くてミンチにするような部位も驚くほどの味わいに昇華する。
お店の方に相談しながら食べたいものや予算を伝えてのお任せがオススメ。
また、1頭買い故、運が悪いと狙っていた部位の品切れなんてこともあるので、予約の段階で食べたい物を伝えておくのもありかもしれない。

[なかはら]
三ノ輪の”七厘”での伝説第一章が完結し、市谷の”なかはら”にて伝説第二章が幕を上げた。
“七厘”時代に比べて店内は広くなり、スタイリッシュな雰囲気になっている。
年内はオープンしたてということもあり、新しいスタッフの接客がまだ落ち着いてないようであったが、そんなことも吹き飛ばす中原さんの焼肉は健在。
肉という素材と対話しているのかと思ってしまうほど、肉にストレスがかけられておらず、呼吸をしているかのような肉を1枚1枚丁寧に焼けば、今まで食べてきた焼肉との違いに驚くだろう。
間違いなく市ヶ谷にて伝説は作られであろうし、伝説第二章は第一章を超えることになるだろう。

[虎の穴]
一昔前に比べて、鮮度の良いホルモンが食べれるお店はかなり増えた。
それでも、ホルモンの鮮度は勿論、カットや味付けで他を寄せ付けないのが、"ゆうじ"とこの"虎の穴"。
またホルモンの火入れは店主・辛さんに並ぶ者はいないかもしれない。
火を入れることで素材に眠った旨みや食感を最大限引き出そうとするそのスタイルは、ホルモン道を極めんとする"虎の穴"らしいもの。
そして、もはや伝説となっているハラミ。
積み重ねられた経験と知識、そしてホルモンにかける強烈な思い。
流行の焼肉屋さんやホルモン屋さんに行き尽くした人こそ、"虎の穴"へ帰ってみて欲しい。

[名門]
ヤッキー中村としてCDまで出している店主・中村さんはあまりに有名。
常連さんのテーブルに付きっ切りとなる中村さんは、登場した時から『黙る』という言葉を知らないかのようにしゃべり続け、オヤジギャグを連発し、時に歌う。
ここまで笑いながら肉を食べれるお店は他にないだろう。
中村さんの接客だけでお金を支払うレベルだが、それだけではないのが”名門”がここまで有名な所以だろう。
内臓類を中心とした素材は『厳選』という言葉がぴったり。
内臓業者から仕入れる段階で厳選しているが、『絶倫コース』に登場するのは、その中でもほんの一握りしか確保できない最上級部分。
宝石のように艶やかな内臓だけが運ばれてくる。
『絶倫コース』は常連さんだけがオーダーでき、そうでない人は横から楽しそうなテーブルを指を咥えながら眺めることしかできない。
私は超のつく常連さんに連れて行ってもらったが、ぜひ常連さんを見つけて連れて行ってもらうことをオススメしたい。

[やまがた屋]
10年以上前から行ってみたかった焼肉屋
お店やスタイルは何度か変更があったようだが、現在はカウンター6席で、店主・山形さんが全てのお肉を焼いてくれる。
かつてはお客の目の前に置かれた七輪を使い、独自の焼き理論で山形ワールドを繰り広げていたようだが、残念ながら現在はカウンターの中で火入れが行われる。
お客は完璧に焼き上げられたお肉を食べるだけなので、同席者との会話に集中できるのであろうが、山形さんの全ての動きを見たい私には残念でならない。
しかし、複数の七輪を使い、カウンターを行き来しながら焼くよりは、より緻密な焼きを実現できるようになったそう。
また焼きを見れなくてもカットは目の前で行われ、吊るされた生の黒タンから贅沢に根元部分が切り出されていく様は興奮せずにはいられない。
素材の一番良いところを贅沢に使い、独自の理論に裏打ちされた焼きは素材の旨みを引き出し、食感や舌触りが素晴らしい。
この独創性にはただただリスペクトするしかない。

☆【自分だけでこの感動を味わっていいのだろうか】
[しみず]
ぱっと出の新店ではない。
店主・清水さんは近道という誘惑にも目をくれず、地道に自分の理想を追い求め続けてきた。
そして清水さんが理想に1歩近づくたびに、それに呼応するかのようにお客さんの支持を得てきた。
ブランド名ではなく、その牛を育てている生産者を軸に肉を食べ、自分の理想にあう牛を探し続けた結果、現在は田村牛を中心とした長期肥育の雌牛だけを仕入れている。
焼肉屋で”しみず”と同等の肉を仕入れているお店は数えるほどしかないが、”しみず”と同等の価格で提供しているお店は1つもない。
個人的な体感で言えば、3割から5割安く感じてしまう。
これも家族経営で極限までコストを抑えているから。
素材だけでなく、タレといった焼肉には欠かせないアイテムも日々進化している。
これから益々目が離せない名店へと進化を遂げるだろう。

[くにもと 本店]
決して安価なお店ではない。
どちらかと言えば高級店だ。
店内は学生のアルバイトではなく、将来の独立等を夢見て修行しているスタッフが一生懸命働き、日々勝負しているかのような心地よい緊張感すらある。
“くにもと”は価格でお客を集めようとはしていない。
本物の焼肉の味でお客を集めようとしている。
肉の目利き、素材のポテンシャルを引き出すカット、そして私が数ある焼肉屋の中で最も好きなタレ。
常に焼肉に最適な状態で準備されている炭も忘れてはならない。
“くにもと”の入り口に入る時、私は常に待ち構える焼肉職人との勝負だという気持ちでいる。
しかし、出る時は、『今日も完敗でした』と心の中で呟いている。
“くにもと”の焼肉を食べる時、『本物』という物を知ることができる。

[ジャンボ 篠崎本店/本郷店/はなれ]
ブランドにこだわらず、常に上質なお肉を仕入れ、絶妙なカット、秘伝のタレで食べる。
ザブトン、ミスジ、トモサンカクの御三家以外にも並ロースやシンシンは、値段からは考えられないほどの感動を与えてくれる。
焼肉界では既に伝説的な存在である篠崎本店はもちろん、本店のマスターの息子さんである若率いるはなれも凄い。
最近はコース料理への研究が進んでいるので、こちらも要注目だ。
本店の良さを引き継ぎながら、新たな試みを加え、ジャンボのエリートDNAは進化を続けている。

[傳々 本店]
ゴージャスに芸術的な盛り付けがされたお皿の肉はどれもが驚愕の旨さ。
しっかりした肉質とホスピタリティで間違いのない焼肉に出会える。
特にタンとハラミは、都内屈指の仕入れ力ではないだろうか。
また、店主・高矢さんのセンスが輝る味付けや独創性に、常に芸術的なカットを見せる料理長の技術の高さがお皿を通じてテーブルまで伝わってくる。

[金竜山]
細かなサシが散りばめられた肉の評価が高く、肉質が強調されがちな"金竜山"だが、特筆すべきはやはりタレ。
ニンニクがかなり効いていて、タレ自体から肉の旨みが発するように感じてしまう不思議な味わいなのだ。
並・中・上・特上と4種類用意されたカルビは立派な霜降り肉で、タレによってその持ち味をさらに30割増しに。
テーブルわずか4席で1日2回転(3回転)。
そして昭和の焼肉屋を彷彿させるノスタルジックな店構えに味のあるお店のお母さん。
お金では買えないこの全ての要素が相まって日本一予約の取れない焼肉屋さん"金竜山"が完成する。

[スタミナ苑]
日本一有名な焼肉屋
予約が取れず行列が耐えない焼肉屋
総理大臣ですら並んで食べる焼肉屋
"スタミナ苑"を説明する上で、そのエピソードを上げればきりがない。
ここ10年の焼肉業界の進化は凄まじい。
以前は"スタミナ苑"でしか食べれなかったような鮮度の内臓が食べれるお店もチラホラ出来ているのも事実。
しかし、本物の職人の仕事に追いついているお店はほとんどない。
店主・豊島さんが今なお進化させ続けている"スタミナ苑"の焼肉は、他のお店に翻弄されない本物だけの味がある。

[サトーブリアン 本店]
2011年6月にオープンしてから瞬く間に人気店となり、同じ阿佐ヶ谷に2号店も出し、それでも予約が取りにくい程の人気を誇っている。
その秘密は何と言っても店名から伝わるシャトーブリアンへの愛情。
薄切りのシャトーブリアンはタレの味付けで、焼き上がった後は卵に絡める。
繊細な味わいのシャトーブリアンに卵のインパクトを加えたヒレスキである。
シャトーブリアンは焼くだけに留まらず、衣をまとって揚げられる。
ロースに比べると若干淡白なシャトーブリアンだからこそ、衣で閉じ込められることによって芳醇な旨みをより膨らませる。
巷でヒレカツと呼ばれ、羨望の眼差しで見られるこのメニュー、”サトーブリアン”ではブリカツと呼ばれる。
そして”サトーブリアン”の名を一躍世に広めたのはブリ飯によるところが大きい。
厚切りのシャトーブリアンを特製のニンニクバター醤油に潜らせ、熱々のご飯に乗せる。
そしてトドメはその上にニンニクバター醤油を再度かける。
シャトーブリアン好きは足を運ぶべきである。

[みすじ]
"よろにく"の2号店として確固たる地位を確立した"みすじ"は、今でも進化し続けている。
オープン当初からカルビがなく赤身に特化した焼肉店、さらには"よろにく"のDNAを受け継いでいるということで、世の中の肉好きを魅了していた"みすじ"。
普段"よろにく"に通っているので"みすじ"への訪問は稀で、会社帰りにサクッと焼肉定食だけを食べることが何度かあった。
しかし、それだけで"みすじ"が如何に進化しているかが分かる。
旨みが溢れる上質な肉質に、むらなく焼ける綺麗なカット、そして焼肉らしい最高のタレが極上を約束してくれる。

[生粋]
六本木に東京ミッドタウンが開業し、ブーメランパンツをはいた某芸人さんの『そんなの関係ねぇ』が流行語となり、ドラマ『ビューティフルライフ』の視聴率が40%を超えた2007年。
それらを吹き飛ばすようなセンセーショナルな出来事が焼肉界では起きていた。
突如として青山・骨董通りに現れた"よろにく"の存在がそれだ。
オーナーのVANNEさんは、焼肉好きが高じて遂には焼肉屋さんを始めたが、それまでは焼肉屋さんとは全く無縁のDJとして活動してきた方。
人並み外れた研究熱心さはもちろんだが、最も驚かされるのはクリエイティブなセンス。
瞬く間に都内を中心とした焼肉好きの心を鷲掴み、焼肉界のスターダムにのし上がった。
2010年には赤坂のみすじ通りに、カルビを置かない赤身専門の焼肉屋さんとして"赤坂みすじ"もオープンさせ、ハイクオリティな肉質でありながら"よろにく"よりも若干安い価格帯で焼肉好きを狂喜乱舞させた。
そして2014年。
末広町の駅出口の目の前、秋葉原から歩いても10分程度の場所に、遂に"生粋(なまいき)"をオープン。
"生粋"では厚生労働省の生肉基準をクリアしており、牛刺し、生肉の握りやユッケを合法的に食べることができる。

[又三郎]
昨今の熟成肉ブームが起こる前から独自の手法でドライエイジングへの研究を続け成果を出してきたパイオニア
仲卸や精肉店のように大きな熟成庫ではなく、個人の飲食店でここまでドライエイジングを成功させたお店は"又三郎"以外にあるだろうか!?
店主・荒井さんの熱意と研究熱心さには尊敬の念しか起こりえない。
話をさせていただいた際も、謙虚なその姿勢は印象的だ。
また、荒井さんの熟成肉の火入れは素晴らしく、しっかりと中心まで熱が届いているのだが、綺麗な赤みは残されている。
熟成肉の芳醇な香りが見事に立ち、繊細かつ大胆な女性らしさすら感じる絶妙な火入れだ。