No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年1月19日 焼肉 やまと 船橋本店


東京に比べると焼肉不毛の地と感じる千葉にも「これは!」という焼肉屋が2つある。
1つは旭市を本拠地とする”大衆肉料理 今久”。
前沢牛常陸牛といったブランド牛を信じられないほど格安で食べることができ、開店前の3時頃から席を確保するために入り口にある順番待ち表が埋まり始める。
"今久"で食べれるブランド牛は立派なサシが入っているが、食べてみると去勢がメインのようで、しつこく感じる人もいるだろう。
だが、その価格は都内では考えられないレベルなのもあり、千葉県内には”大衆肉料理”一派のお店はいくつかある。
もう1つが今回訪問にした”やまと”だ。
こちらは松阪牛を筆頭にブランド牛を扱っているのは“今久”と似ているが、そのほとんどが長期肥育された雌牛で、ブランド名だけでなく、その本質を大切にしている稀有な存在なのだ。
千葉では珍しい高級店で、比較的大箱の店内は清潔感があり、カップルから家族連れで賑わっている。
単純なメニューの価格だけだと、”今久”より高く感じるが、厳選して仕入れた素材を考えれば決して高くなく、適正な値段で提供している。
この日は年末の松阪牛の共進会でのチャンピオン牛を食べるという会で、松阪の生産者も交えて肉談義を楽しめた。
前菜に入っていたローストビーフは、よくあるパサパサなそれではなく、しっとりとした食感に、肉の味もしっかりと感じられる。


“やまと”でぜひ食べて欲しいのがダイヤモンドカットと呼ばれる独特なカットが施されたタン。
広げて網に乗せ香ばしさを意識して火を入れる。
タンそのものが上質ゆえ、肉汁がボトボトと落ちることなくキープされ、焼き目の表面積が広いので、体験したことのないサクサク感を味わうことができる。


このダイヤモンドカットは正肉への応用もある。

タンだけでなく、ハラミも間違いのない仕入れ。
特ハラミは噛み締めれば、溢れ出した肉汁で口の中がいっぱいになる。

鼻に抜ける香りが素晴らしかったのがカイノミ。
最後の肉片を飲み込むと、余韻が心地よく広がる。

極薄カットはしゃぶ焼きで、赤身由来の鉄分を感じさせる旨みに、ふんわりとした食感。
上品で優雅な味わいだ。

もちろん、力強さを前面に押し出すものもある。
サーロインはスティック状にカットされ、松坂牛らしい融点の低いサシの甘みと滑らかさが秀逸。

噛むごとに溢れる肉汁、そこから舌を覆う旨みが強烈なのがランプステーキ。
肉の味の凝縮感が半端ない。

最後は究極のシャトーブリアン
シルクのような繊細な舌触りと鼻孔に抜ける香り、そして口の中で膨らむ旨みの全てが完璧。

"やまと"のウリはなんと言っても厳選に厳選を重ねた黒毛和牛であることを実感。
特に松阪牛については毎年チャンピオン牛を仕入れ続けている。
もちろんチャンピオン牛のある年末年始だけでなく、年間を通して拘った黒毛和牛を仕入れることで生産者を支え、それを採算度外視でお客さんに還元している。
松阪牛のチャンピオン牛でさえ通常価格で提供する程の太っ腹ぶり。
黒毛和牛の流通、特に上物と呼ばれる範囲を支え続ける名店と言えるだろう。
まさに、消費者と生産者、双方のために尽力している孤高な存在なのだ。