No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年3月24日 銀座 かわむら

牛肉料理に関して、唯一無二の独自の世界観を持った数少ない料理人である河村さん。
『和牛の旨さはヒレにある』
と言い切る河村さんの真意は、”かわむら”の肉料理を食べると理解できる。
河村さんの選ぶ肉は、決して旨みを追求されたものではない。
喉越しと余韻という繊細さに重きをおいている。
これらが河村さんの考える和牛の良さであり、河村さんはそれらを最大限に活かす技術を極めている。
対して、和牛を食べて食べて食べ尽くして行き着いた、私が和牛に求める一番のポイントは旨み、肉の味の良さと濃さだ。
去勢より雌、月齢は30ヶ月後半、血統は純但馬、そして好みの生産者といった具合に、自然と自分の好みにあう条件、軸が出来上がってきた。
河村さんと私の追い求める素材、肉は違う。
喉越しと余韻という要素を追求するが故、雌だけでなく去勢も使用し、生産地を絞ることもしない。
しかし、河村さんのステーキは私にとって間違いなく最高峰の一つだ。
河村さんにしか出来ない、河村さんだけの火入れが施されたステーキは、繊細さの極み。
赤ん坊のほっぺのようなふるふるとした柔らかさ、それを奥歯で押し込むと瑞々しさと繊細な素材のポテンシャルが引き出されているのが分かる。
喉越しと余韻。
まさにその言葉通りの芸術品と言える。

今回河村さんの焼き上げる芸術と共に楽しみにしていたのが、”かわむら”流のすき焼き。
以前、河村さんは和牛のロースを好まないとおっしゃっていたのだが、勇気をだして(笑)「肉が上質であればあるほど、ロースが最も差が出やすく、そして旨い」という私の持論を河村さんにぶつけてみたことがある。
それに対して河村さんは一切否定することなく、河村さんが旨いと思うロースもあること、そしてそういったロースはすき焼きで食べると旨いということを話してくれた。
そしてこの日はそのすき焼きが準備されている日。
いつもの牛丼用のロースとは別に、すき焼き用のロースが仕入れていた。
牛丼用のドデカいロースとは違う、小振りのロースに包丁を入れる河村さんは、すき焼きとは思えないほど厚く肉をカットする。
そのロースをフライパンに投入し、肉を焼いていくと、脂の爆ぜる音が静かな店内に響く。
最後は特製の割下できっちりすき焼きに仕上げられた。
ぱっと見はすき焼きというより薄切りステーキといった感じ。
一口食べれば醤油系の香ばしさと卵のまろやかさが混じり合い、確かにすき焼きだ。
肉は蕩けるような食感ではないが、奥歯が肉の中にすっと入りこむような赤身自体の柔らかさがある。
噛み締めることで肉本来の味わいが広がり、そして肉と割下、卵が絡み合い、それぞれの良さを引き立てあっている。



もちろんステーキやすき焼き以外にもいつも通りヒレカツからヒレハンバーグ等々もしっかりと味わったのだが、今更ながら”かわむら”で初めて肉以外の料理(サラダとデザートを除く)をつまませてもらい、これもまた異常に旨いことを知ったw
河村さんのステーキを食べることで、覗くことのできる河村さんの世界観。
その世界観は何度食べても全く揺らぐことのない。
道を極めし匠を知ったことは、私の和牛観の礎の一部になっている。
(牛タン)

コンソメスープ)

ヒレカツ


ヒレハンバーグ)