No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年9月7日 蔵


外国人で賑わう浅草に、本物を貫き続けるお店を見つけてしまった。
ジャンルは炭火焼会席。
今まで何度か同ジャンルのお店に行ったことはあるが、あまり心に引っかからないというか、がっかりすることも少なくない。
しかし今回の”蔵”は違う。
随所に感じられる拘り、本物を使い続ける気概を感じずにはいられない。

まずテーブル中央に設置された炉。
そこに運ばれてくるのは、よく見かける成形木炭とは違う本物の備長炭
白い灰が敷かれた上に赤々と熱を放つ備長炭のコンストラストに目を奪われながらも前菜を楽しむ。
特に土瓶蒸しは国産の松茸がたっぷりと使われ、肉好きであっても嬉々としてその香りの世界に没頭してしまう。





メインの炭火焼で使用されるのは田村牛。
“蔵”のオープン時から一貫して本物に拘り、田村牛を使い続けているのだ。
芯と巻きが盛り合わせになったリブロースは薄切りで。
備長炭で火入れされたリブロースは薄切りでありながらもふんわりとした焼き上がりで、舌の上で広がる肉の旨みを透明度の高いすっきりとした甘みがコーティングする。



薄切りでも素晴らしかった備長炭の良さを存分に感じさせてくれるのはやはり厚切り。
分厚くカットされたシャトーブリアンの中心までしっかりと均等に熱を届けてくれる。
焼き上がったシャトーブリアンの芳醇な香りにうっとりと意識が薄れていくが、ぷるんぷるんの肉繊維の束を噛み切れば目が覚めるような衝撃を受ける。
口の中の感覚器官の全てにしみ込む深い味わい。
肉の味がするだけじゃなく、肉の味そのものが抜群に良い。




最高の備長炭で最高の肉を焼く。
手頃な値段ではないかもしれないが、決して高いわけではなく、内容を考えれば間違いなくオススメできる。
腕に覚えある焼き手にはぜひ体験してみて欲しい。
またこの日は田村牛の生産者である田村さんも同席してくれた会。
田村さんが育てた田村牛を私が焼き、田村さんに食べてもらう。
肉好きとして、焼き手として何とも不思議な喜びを感じてしまう。