No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2016年12月2日 三田牛竈炭火焼 ウェスタ Vesta


『師走は借金してでも肉を食え』
あまり意識していない人が多いかもしれないが、魚や野菜の様に牛肉にもちゃんと旬がある。
昔の農家さんは牛の肥育専業というよりは、農作物を育てたりしながらの兼業が多かったようで、農作物の収穫が一段落した後の11月辺りに共進会を行い、肥育技術を競っていた。
今でもその名残で、多くの共進会は11月辺りに行われている。
その為、生産者も共進会に自信のある牛を出荷し、共進会に出荷された牛が市場に出回るのが12月。
また、12月はお歳暮や年末年始の影響で需要が高まり価格も上昇する。
更に、夏場は牛も水ばかり飲んだりダレてしまうが、この時期には牛の状態も良くなり、味の良くなるのだ。
そういった全ての条件が揃うのが12月。
だからこそ、肉好きであればこの時期は必死になって牛肉を食べ歩く。
特に日頃は食べれないような高級店にも足を運ぶだろう。
この日私が足を運んだのは日本橋の”ウェスタ”。
新橋の名店“あら皮”の影響を強く受けた炉窯ステーキの名店で、純但馬血統の三田牛に拘っている。
そして、この時期は第59回三田市肉牛共進会の名誉賞の個体が入荷したばかり。
名誉賞、つまり2016年に出荷された三田牛の中の最高峰、No.1の個体。
有井さんが肥育した34ヶ月の雌
個体識別番号1354485109
丸富土井-菊俊土井-谷石土井(純但馬)


この最高峰を料理長・一宮さんが見事な肉料理へと変貌させてくれる。
イチボは餡をかけ、素材の甘みを引き立たせる。

フランクはタルタルに。
バラでタルタルという経験があまりないので食べる前は想像できなかったが、適度な食感があり赤身の味わいが深い。

サーロインの薄切りはさっと炙られたもの。

"イデア"と同様、"ウェスタ"でも黒タンを炉窯で焼いてくれる。
しかも"ウェスタ"で使用するタンは黒タンの中でも三田牛のもの。
純但馬血統の食感と香り、そして血の濃さを感じさせる旨みが圧倒的に違う。





ここまでで十分その個体のポテンシャルを感じさせてくれるものであったが、杉本さんが炉窯と向き合って火を入れたステーキは絶品以外の何物でもなかった。
最高の牛肉とパーフェクトな技術が生んだ身震いするほどのステーキ。
飛び抜けて素晴らしかったのはシャトーブリアン
焼く前は肉色が少し薄く見えたのだが、一口食べればそんな心配が一気に吹き飛ぶような味の濃さ。
舌で押すだけでほぐれそうな繊細な肉繊維が包み込んだ旨みのジュースは、しっとりと味覚を包み込み、強烈な刺激を脳まで送り込む。
これ以上のシャトーブリアンを思い出すのには時間がかかるかもしれない。
とにかくそれほど旨い。







和牛の旨さが最も凝縮した部位はやはりロース。””
中でもサーロインは「sir」の称号に相応しい。
サシが入っているが、そのサシが嫌なベタツキなど皆無で、すっきりとした甘みと香りを膨らませている。
とにかく圧倒的な素材の力。








2016年最高の三田牛という触れ込みに嘘偽りなし。
そして、オープン当初は少し気になった火入れも、焼き手が杉本さんに変わったことで文句の付けようがないパーフェクトな状態に。
一切の妥協を排除して頂点を目指す気概を”ウェスタ”から感じずにはいられない。