No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2017年1月21日 あら皮


もし牛肉の世界にも〈道〉というモノがあるとすれば、ただひたすらこの道を進んだ者にしか分からない、気付かない世界があるのかもしれない。
他の道を通っていたら、決して到達できない地点があるのかもしれない。
残念ながら私の歩くペースではまだまだ道半ばと言わざるを得ない。
しかし、それでもおぼろげながら見える世界もある。
過剰ではなく適度に入ったサシ。
過度な熟成によって和牛本来の香りを消すのではなく、牛肉を落ち着かせることを目的とした適度な熟成。
時代の流行に流されることなく、お金ではなくプライドを選択して雌の純但馬牛を肥育する生産者との強力なつながりから仕入れる小豆色の極上の三田牛。
そして伝説と呼ぶに相応しい先代から引き継いだ牛肉に関する目利き、他のステーキ屋とは一線を画す炉窯での火入れ。
ここまで牛肉を食べてきても、神戸の”あら皮”のサーロインステーキを超すモノに出会ったことがないのにはこれだけの理由があるのだ。
コースはスープから。

この日の前菜は炉窯でスモークしたリブロースのカブリ。
フォークを口元に近づけると上品なスモークの香りが広がり、口に入れれば旨みが圧倒的な広がり方をみせる。
脂のトゲが微塵もなく、純粋に旨みと香りが増幅されている。
冷製の牛肉の前菜でここまで身体に電気が走ったのは初めて。

2つ目の前菜はラヴィオリ
もちろん中身は三田牛。
こちらの衝撃も凄い。
牛肉の出汁、牛肉の旨みが凝縮していて、一心不乱に食べてしまう。

サラダも。

メインのステーキはサーロイン。
店主が見せてくれたブロックは見事な小豆色。
肉肌には照りがあり、肌理の細かさが伝わってくる。
一目見て吸い込まれそうになるほど圧倒的な存在感が放たれている。
店主・山田さんのご厚意で厨房の中に入れてもらい、目の前でサーロインに火が入っていく。
炉窯は真似出来ても、先代から引き継いだ火入れの技術は真似できないという絶対的な自信。
それを証明するかのようなパーフェクトな火入れ。
断面から露出した見事なロゼ。
目を閉じたくなるほど芳醇な香り。
一口食べて出る言葉は「旨い!」だけ。
それ以外の言葉が思いつかないほど、五感を支配する濃密な旨み。
肉繊維の隙間に溶け込んだサシは、無理やり前面に出てこようとしない。
肉の旨みを支え、引き立てる。
肌理の細かな肉繊維はしっかりと歯に仕事を与えてくれるが、そこには見事な繊細さがある。





これを超えるステーキに出会うにはどうしたら良いのだろうか。
もう一度この席に座るしかないのかもしれない。
これほどの牛肉を食べたにもかかわらず、その値段には呆気に取られる。
決して安い金額ではないが、素材を考えたら破格以外の何物でもない。
過剰な利益も求めていない。
純粋に世界一のステーキを提供することだけに心血を注いでいる。
言葉のキーワードに着飾られた牛肉ではなく、本物を食べたい人には、必ず訪れてもらいたい。