No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2017年1月22日 都内某店(銀座吉澤)

全国の牛肉を食べ込んできた。
自分の中では、飛び抜けた生産者の情報はある程度把握できてきたように感じる。
だが、まだまだ食べ込みが足りず、情報が不十分な生産地がある。
それが松阪牛だ。
意外だと思う方がいるのではないだろうか。
普段食べている松阪牛は、脂っぽくてそこまで旨いと思わないと。
批判を恐れず正直に言えば、私も昔はそう思っていた。
しかし、松阪牛は違っていた。
松阪牛というブランドに胡坐をかかず、ビジネスではなく意地とプライドで歯を食いしばっている生産者の牛肉は、肌理が細かく爆発的な旨みを持っていた。
松阪牛近江牛神戸ビーフといった日本三大和牛の生産地や山形、岩手など、歴史ある和牛生産地には、お金以上の何かに突き動かされて牛を肥育している農家さんが何人もいるのだ。
特に松阪牛の中でも1%〜3%ほどしか肥育されていない特産松阪牛は、兵庫県の純但馬血統で、月齢もだいたい38ヶ月以上、もちろん雌だ。
特産松阪牛はとにかく生産効率が悪い。
しかし味は間違いない。
かつて、松阪牛こそが日本一のブランド牛だと、誰もが認めていた時代の松阪牛なのだから。
私の中で、2017年はとにかく特産松阪牛を食べ込む年と決めている。
肥育頭数が極端に少ない為、滅多にお目にかかれないのだが、情報が入れば何としてでも食べてみる。
とにかく食べて感じるしかないのだから。
前置きが非常に長くなってしまったが、今回は正月にすき焼きで食べた吉田さんの特産松阪牛に続いて、2度目の特産松阪牛を食べる機会に恵まれた。
“銀座吉澤”で購入した特産松阪牛は、都内の某炉窯ステーキ店に持込み、熟練の焼き手に全てを委ねた。
浦田さん肥育の特産松阪牛、個体識別番号1409193546、月齢42ヶ月(あと1日で43ヶ月)
血統は福芳土井-照長土井-第2安鶴土井
シャトーブリアン
ヒレのど真ん中のシャトーブリアンは500g近い塊。
信じられないことに、これを切らずにそのまま串に刺し炉窯に投入。
あまりの分厚さに中心まで火が入るのか、といった心配を余所に、焼き上がったシャトーブリアンの断面からは見事に中心まで熱が届いてるのが分かる。
表面は香ばしくカリッとしていながら、そこから1ミリ中はジューシーで繊細過ぎる食感。
咀嚼する回数に比例するかのように旨みが強くなり、その余韻が惜しくて飲み込めなくなる。
年始早々だが、2017年にこれ以上に出会うのは難しいと感じるほど最高のシャトーブリアン











サーロイン
まず悩んだ。
“銀座吉澤”でサーロインを買う時に、ランジリ側かリブロース側かで、かなり悩んだ。
どちらも生地の細かさや吸い付くような質感が伝わってくるのだが、この日はより神々しかったリブロース側を選択。
切り立ての断面は小豆色と呼ぶに相応しい肉肌で、食べなくてもそのヤバさを感じる。
サーロインも分厚いカットのまま炉窯へ。
焼き上がったサーロインにナイフを当てると、シャトーブリアンの時より少し強めのサクッとした手応えがあり、その内部はゼリーのようにプルンプルンに仕上がっている。
最初に舌に届くのは脂のインパクトではなく、赤身の旨み。
それを追うようにジワーと脂の甘みが広がる。
奥歯で肉片を噛み締めれば、押し潰された部分から力強い旨みと芳醇な香りが解き放たれる。
今まで食べてきた長期肥育の但馬血統とも違った上品なサシと奥深い味わいにウットリする。












これほどの特産松阪牛を炉窯で焼いて食べたことがある人がいるだろうか。
霜降りの量だけに意識を支配されている牛肉とは一線を画す、味だけを追求した牛肉。
心から感謝したくなる牛肉。
旨かったです。
そして、これだけの牛肉が一般のお客さんでも買えるという事実が恐ろしい。