No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年6月 あら皮

ミシュランでステーキ初の二つ星獲得し、小山薫堂氏に『東の二郎は鮨を握り、西の二郎は肉を焼く』と言わしめ、世界一と言われるステーキ。
故・山田二郎氏の逸話は多く、肉はもちろん牛を見る目、そして肉の火入れは、他者を一切寄せ付けないレベルにあったと言われている。
現在は息子さんがかつてと変わらぬ神戸・三宮で、山田二郎氏の技術と意思を受け継いでいる。
私は息子さんの焼いたステーキを一度だけ食べたことがあるだけなのだが、その肉と焼き方は今まで食べたことのあるステーキの中では間違いなくNo.1という記憶が脳と舌に残っている。
そして約1年半ぶりの再訪。
今回はコース仕立てでメインはイチボとのことだったので、ロースを追加でお願いする。
驚かされるのは肉だけでなく、前菜が非常に旨いこと。
特に衝撃的なのはスモークサーモン。
“あら皮”の影響を受けているステーキ屋さんのスモークサーモンはどこも旨いが、その中でもここ総本山は頭一つ抜きんでているレベル。
鼻腔をくすぐる芳醇な香りとしっとりとした滑らかさ、サーモン自体の滋味深い味わい、そのどれもが最高峰と言える。

そして日本一のステーキとの再会である。
まずイチボ。
表面は炉窯らしいパリッとした焼き上がりだが、中は若干火が入り過ぎているように見える。
一口頬張り噛み締めると、熟成香がまず広がり、そこから肉の旨みが・・・と思ったが。。。
前回は感じられなかった熟成香だけが前面に主張してきて、肝心の和牛本来の香りと味わいがほとんど感じられない。
黒毛和牛の中でも但馬牛、さらに三田牛に拘ったお店であるにもかかわらず、個体のポテンシャルが消し去られ、平凡な熟成香だけとは。
前回食べたような感動には程遠い、ある程度のお店であれば食べれるようなごく普通のステーキといった印象。


そして単品で追加オーダーしたロース。
最高の和牛こそロース、そして炉窯焼き。
その信念を持って食べ始めたが、噛み締めるごとに自分の中で何かが崩れていく。
炉窯で焼いたとは思えない締まりのない表面、内部は明らかに火が入り過ぎ。
食感は若干パサつきがあり、肉の味もびっくりするほど普通。
1年半前から思い続けた感動の再会とは程遠いものだ。
まずくはない、しかし、前回の世界一と思えるステーキと今回のあまりに平凡なステーキとの差にショックが隠せない。
ちなみに価格は東京の"あわ皮"を超えてしまいそうな程で、これがよりショックを大きくしているのは間違いない。



愛想のあまり良くない接客も賛否両論だが、お皿の上のステーキさえ旨ければ何も気にならない。
しかし、今回のステーキはあまりに悲しい。
勝手に期待しすぎていたのかもしれないが、それでも1年半前のステーキは本物だった。
日本一、いや世界一のステーキだと思っているからこそ、この日の体験が信じられない。
どうかもう一度だけでも、山田二郎氏から受け継いだ本物のステーキに再会できることを祈りたい。
どっちが本当の"あら皮"なのだろうか。
唯一無二の名店だと信じているからこそ真実が知りたい。