No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2012年4月11日 【第1回】焼肉のための熟成肉勉強会


最近はドライエイジングを中心とした熟成に注目が集まっているが、焼肉業界を見渡すと、熟成を追求しているお店はほとんど見かけない。
それはサシの入った黒毛和牛を使用していたり、薄切りのカットやタレ等の要因ではないだろうか。
ただ、血統、性別、繁殖肥育一貫、水、飼料、肥育環境、肥育期間、と蓄技術、抜骨、ブロックへのカット、熟成方法、熟成期間、保存状態、食べる際のカット、味付け、ロースター、焼き方等々、こういった旨い焼肉を食べる為の工程を考えると、熟成の影響は小さくないし、我々食べ手に情報として伝わりやすいと思える。
しかし残念ながら、世の肉業界は熟成という言葉だけが独り歩きしてしまっている部分もあり、これがおかしな先入観を与えてしまっている場面にも遭遇する。
そこで熟成に対して過大評価もせず過小評価もせず、熟成の真の姿を追求するために、熟成に興味のある焼肉屋さんを含めた有志(マニア)で、焼肉の為にどんな熟成が良いのかを追求する為の勉強会を開催することにした。


今回は記念すべき第1回目で、"中勢以"のお肉を知ることを目的に、6つの部位の300g以上の塊で焼き上げ、食べ比べを行い、中勢以のお肉の部位毎の違い、同じ但馬血統での熟成の違い、ドライエイジングと究極のウェットエイジングの違い、ドライエイジング同士の違いを追求してみた。
イチボ 中勢以 vs 神戸牛



シンシン 中勢以 vs 神戸牛




トモサンカク 中勢以 vs 長期低温熟成



クリ 中勢以 vs 長期低温熟成


サーロイン 中勢以 vs 門崎丑



ランプ 中勢以 vs 門崎丑



ちなみに、"中勢以"のお肉は、但馬血統にこだわり、飼料や肥育技術において信頼できる牧場で生産された神戸牛や但馬牛を枝肉のまま8週間ほどドライエイジングさせているのだが、そのドライエイジングの手法もホルスタインをメインにしている"さの萬"とは違って、風で空気を循環させたり、菌床を使用したりせずに、個体のポテンシャルを引き出すような手法のようだ。
神戸牛は、兵庫でも有数の肥育農家である川岸牧場のお肉で、一般的なと蓄から2週間程度のフレッシュなものを用意してもらった。
この川岸牧場は、肥育技術だけでなく、神戸牛では頭数が非常に少ない雌牛だけを肥育している貴重な牧場なのだ。
長期低温熟成は、"炭焼喰人"にお願いして準備してもらったお肉で、ウェットエイジングでありながら、お肉を劣化させずに19週間程度熟成させたものである。
門崎丑は、自社の牧場で肥育した牛を枝肉の状態で8週間ドライエイジング、その後にブロックにカットして5週間ウェットエイジングさせたお肉を"格之進"で準備してもらえたのだ。
この食べ比べで、普段何気なく食べていると気付き難い違いが、食べ比べることによって、はっきりと感じ取れた。
まず、"中勢以"のお肉は、肉繊維のたんぱく質アミノ酸に分解されていることを感じさせる食感で、風味もしっかり感じられる。
脂の強さは個体毎に、強く感じものもあれば、サシがあっても軽く感じるものもあった。
同じドライエイジングでも、門崎丑は脂のインパクトが強く、自由水が飛んで活性水によるジューシーさというより、"中勢以"に比べて元々の水分量が多く感じ、これが"中勢以"のお肉とは違ったジューシー感を与えてくれる。
ドライエイジングが騒がれている中で、一番熟成感を放っていたのが"炭焼喰人"のウェットエイジングで長期低温熟成されたお肉。
焼きあがった風味も最も強く、口の中に力強く残る旨みのインパクトが強い。
熟成をほとんどしない状態だった川岸牧場の神戸牛だが、今回の勉強会を自己満足で終わらせない役割をしてくれた。
肌理の細かな食感、さっぱりとしていながら甘みが強く、肉自体の旨みが強烈。
香りは熟成とは全く違った上品なもので、後味の良さを感じさせてくれる。
特にイチボは想像を絶するレベルで、『黒毛和牛はしつこくて嫌だ』という人に食べて欲しい一品であった。
今回は焼肉としては踏み込みが浅かったが、熟成を身体に感じさせるにはこれ以上ない体験であった。
結局、今回準備されたお肉はどれも極上レベルで、どれも驚きの旨さであった。

ただし、その味わいや方向性は全然違うので、ここから先は好みの問題が大きくでてくるだろう。
ただ、焼肉のコースの中で、今回のような塊で焼いたお肉を一つ加えるだけで、コースの流れの面白みが増すと思う。
薄切りのカットとタレの焼肉に活きる熟成という難問には、次回以降で深めていく予定。
ちなみに熟成肉を散々食べた後は、"炭焼喰人"に差し入れてもらった超厚切りのシャトーブリアン、"よろにく"に差し入れてもらった薄切りのタレでの焼肉を満喫し、勉強会の後は、恵比寿の"しん"に移動して、馬肉をたらふく食べながら反省会。