No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2013年7月17日 トロワフレーシュ TROIS FLECHES


肉を焼くという行為は、肉そのものが持っているポテンシャルを引き出すということ。
理想的な火入れによって得られるのは、鼻腔をくすぐる香り、飲み込む瞬間まで舌の上に広がる旨み、そしてその肉がこれまで辿ってきた時間を共有するかのような感覚だろう。
肉の火入れの手法は多種多様に存在し、唯一無二の正解はない。
ただ、ひたすら食べ続けた先に、自分の好みを知ることはできる。
自分の中の理想といった方が良いかもしれない。
勿論、牛の品種や部位、熟成具合、味付けでも違ってくるとは思うが、多くの場合で私の中で理想的な火入れは炉釜によるもの。
表面に負担をかけずに内部までしっかりと熱を伝え、隅々の肉繊維までポテンシャルを開花させると同時に、表面は紙1枚分の香ばしい壁を作り上げる。

当然炉釜を操るのは難しい。
熟練の技が必要だし、炉釜1つ1つの癖もある。
最も理想的な炉釜の威力を味わえるお店の1つが"トロワフレーシュ"だろう。
ぜひ"あわ皮"、"ドンナチュール"と肉好きを虜にしてきた森地さんのホスピタリティ溢れるステーキを堪能しよう。

短角牛のサーロイン
短角牛は自然交配で夏山冬里といわれる放牧が中心であり、時期であったり地域によるばらつきも楽しみの1つだ。
私も初めて"トロワフレーシュ"を訪れた際に食べた短角牛を超える短角牛に今まで出会ったことがなかったのだが、今回の短角牛はそれに匹敵する素晴らしさがあった。
その個体は8歳ということだったので、月齢で言えば96ヶ月以上ってことか!?
まず焼く前の肉色の濃さに目を奪われる。
そしてその肉色から高まった期待を裏切らない強烈な旨みが1噛み毎に口の中で広がっていく。
また長期月齢の個体で感じられるような粘りのある舌触り。
これぞ短角牛と呼ぶに相応しい最高の個体、そして余すところなく全てを引き出す炉釜の力に驚かされる。
満足度 5



オーブラックのサーロイン
オーブラックは最近輸入できるようになったフランス産の牛肉で、赤身の旨さが特徴といわれ、"トロワフレーシュ"でも最近試しているという。
そのサーロインはしっかりとした噛み応えと、そして淡白な味わい。
奥歯で噛み締めると溢れる肉汁がたっぷりなのだが、先に8歳の短角牛を食べてしまっていたので、あの異常なまでの旨みの濃厚さとついつい比較してしまう。
間違いなく旨いのだが、個人的にはもう少し赤身の旨みが欲しいところ。
オーブラックはBSEによる規制で月齢が30ヶ月を超えるような個体は輸入できない。
勿論今回の個体も月齢がそれほど長くないので、それが影響しているのだろう。
満足度 4



黒毛和牛のヒレ
カイノミがちょこんと付いた焼く前の1本そのままのヒレは見事なまでの艶を放っている。
艶やかな塊が炉釜から出されると、薄い表面がぷっくりと張っている。
パリッとした表面の下に続く肉汁に富んだ内部。
ヒレの繊細さを全く損なうことなく、むしろ強調するかのような焼き上がり。
そして口の中で奥歯に力を込めるにつれ溢れ出す肉汁は、旨み以外の不純物が一切感じられないような純度の高さ。
今まで食べたヒレの中でも最高峰と呼ぶに相応しい焼き上がりと味わいと言える。
満足度 5++




黒毛和牛のサーロイン
3種類目のサーロインだが、一口食べてその違いに驚く。
口の中での旨みの膨らみ方が他のサーロインと全く違う。
重さのある脂とは全く違った赤身とサシのバランスの良さが作り出す傑作で、噛む毎に信じられない旨みに襲われた。
満足度 5+



今回はお肉だけでなく、珍しくフォアグラも頂いたのだが、炉釜で火入れしたフォアグラの食感には頭を殴られたような衝撃を受ける。
こういった試みは"トロワフレーシュ"の楽しさの1つなのだろう。