No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2013年7月 よろにく

焼肉屋という枠を超えて肉割烹という枠でも勝負できる焼肉屋さん。
それでいて世にある肉割烹とは一線を画すレベルの肉を提供し続けている。
南青山にひっそりと佇む控えめな入り口を潜り地下に降りると、そこには肉の楽園が広がっている。
アラカルトでもその実力は分かるが、できればコース、特にお任せコースの凄みは他の追随を許さない。
この日の前菜は滑らかな舌触りと濃厚な旨みを持ったランプとハラミを炙りで。


そして再度登場したランプは白桃と一緒に食べると絶妙のハーモニーを織り成す。
料理を食べているだけでは、ここが焼肉屋さんだとは誰も思わないだろう。

肉割烹を彷彿させる料理はこれだけではなく他にも色々あるが、この日は肉モロコシなるメニューも登場して場を盛り上がらせた。
トウモロコシの甘みとしっかりした食感が主役であるが、そこに力強さを加える肉の存在が必要不可欠といえる。


"よろにく"では老舗の"日山"から特別に仕入れた雌牛は特に長めに肥育されたものが中心。
時には店内で追熟を行い、熟成香がでる寸前ギリギリまで水分を飛ばし、旨みを凝縮させた肉が味わえる。
この日はシャトーブリアンとランプ。
お皿に盛られた肉は、余分な乾燥した部分をカットする前と比べると3割ほど削られてしまっていそうなほど贅沢なカットで、プルンっとした食感と奥歯を伝って旨みが湧き上がるような衝撃を感じる。




忘れてはならないのがその焼き加減。
特にシャトーブリアンに関しては、高級ステーキの枠で勝負できるレベルである。


他にも"よろにく"では"日山"以外でもピンポイントで強烈な肉を仕入れている。
例えばこの日は兵庫県の純但馬で月齢37ヶ月の雌の近江牛
その類稀な血統と生産者の肥育技術の賜物といえる個体のサーロインは綺麗なピンクではなく深みのある小豆色で、もしかしたら昔の黒毛和牛はこんな味わいのものが多かったのではないだろうか、と想像を掻き立てられる。
これは食べてみないと分からないだろうが、とにかく滋味深い味わいだ。

同じ個体のササミはモミダレで揉んでオーソドックスな焼肉スタイルでも楽しませてくれるのが嬉しい。

これだけ肉好きの心を刺激するメニューが揃っているのだが、"よろにく"が"よろにく"という地位を築き上げたのも『焼肉』という最強のベースを持っているからだろう。
鮮度抜群のハツ、独特の食感とタレとのマリアージュを楽しめるツチノコ


普通のお店で最初に出てくるタンも、"よろにく"では最初とは限らない。
これだけのインパクトを持った最高の生の黒タンは前菜ではなく主役の1つなのだ。

そして終盤にはシャトーブリアンとシルクロースと呼ばれる薄切りのサーロインで全員をノックアウトさせるのだ。
"よろにく"初心者であれば、この2種類で悲鳴を上げるかもしれない。
それほどのクオリティを有している。


お任せコースは〆メニューまで興奮せずにはいられず、この日はトマトすき焼き。
再度登場したシャトーブリアンとシルクロースをトマトの酸味が優しく包み込み、別世界のすき焼きを体験させてくれる。






"よろにく"を知れば知るほど、その懐の深さにただただ感服するしかない。
肉を愛する者が、肉と戯れ、肉との時間を楽しむ場所、それが"よろにく"だ。