No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2013年8月 新橋田村町 あら皮


私の記憶が確かなら、このブログでお店の概観や内装の写真を載せたことはない。
私にとってお肉以外は被写体とはなりようがないからだ。
それが東京・湯島の"平"であろうと、京都・三条の"れんらく船"であろうと。
しかし、そんな私でもこの看板を撮らずにはいられなかった。
数々の伝説を残すこの"あら皮"の看板だけは。
鹿が3つ並び、入る者を圧倒する重厚な看板だ。
肉好きでなくても名前くらいは聞いたことがあるだろう。
ネットの世界では、日本一高級なステーキ屋、最高のステーキが食べれるお店等といった言葉が並ぶ。
知り合いの牛肉関係者の話では、値段を気にしなければ今まで食べた中で一番旨かった肉、卸業者が仕入れる牛肉は最高の物で間違いなく旨い、等と聞いたことがある。

一度は行ってみたいと思いながらも、値段を含めた話に腰が引けて、今までずっと未訪問であった。
しかし一度は行けねばならないのだ。
食べねばならないのだ。
それは必然と呼べるのではないだろうか。
前置きが非常に長くなってしまったが、とにかく私の"あら皮"の初体験をご紹介したいと思う。
ステーキ屋さんによって個性が出るコンソメスープだが、ここ"あら皮"のコンソメスープは牛肉の凝縮感が強い。
1口1口飲み進めるとお腹の中が牛肉で満たされていくようだ。

そして炉釜でじっくりと時間をかけて焼かれたステーキ。
今回の個体は以前から食べてみたいと思っていた生産者のものと遭遇。
血統は丸宮土井-菊俊土井-照長土井で月齢36ヶ月の雌の三田牛。
熟成もしっかりされている。
まずはヒレ
"くいしんぼー山中"のヒレと似ていて、ヒレ特有の肉繊維をあまり感じず、どこまでも肌理の細やかな舌触り。
それでいて喉を通り過ぎるまで放つ味わいは至福を約束してくれる。

そしてサーロイン。
1口食べて、これには言葉を失うしかなかった。
まるでゼリーを思わせるようなぷるんぷるんの食感で、ここまで未だかつて経験したことのないような滑らかな肉肌。
サシもはいっているのだが、サシではなく赤身から作り出される食感だ。
そして溢れる肉汁を口の中で集め、舌で全てを感じ取りたくなるほどの旨み。
長い肉人生でこんなサーロインを食べたことはない。
我を失いそうになるサーロイン。

炉釜の火入れは勿論素晴らしい。
だが、牛肉はここでしか味わえない唯一無二のものではないだろうか。
これ程の牛肉を常に確保しているのだとすれば、高い高いと言われている値段も牛肉のみに関して言えば決して高いとは思えない。
同じ位の値段で質には天と地ほどの差があるお店など銀座あたりにはいくらでもあるだろう。
まだまだ甘いとお叱りを受けると思うが、何となく自分が思う牛肉の最高地点近辺は知っている気になっていたし、そういった牛肉の値段もだいたい理解しているつもりでいた。
"あら皮"を体験してしまった今となっては、自分の浅はかな思い上がりが恥ずかしい。
そしてこんな牛肉があることが素直に嬉しい。