No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2014年11月10日 にくの匠 三芳


世界遺産にも登録された和食。
日本になじみの深い食材を用いて、日本の国土、風土の中で独自に発達した料理。
この世界遺産『和食』に仮に牛肉部門があったとしたら、間違いなく頂点に君臨するのが”三芳”だろう。
初訪問時から店主・伊藤さんの牛肉を扱う確かな技術、斬新な発想、そして伊藤さんならではの肉へのアプローチに心奪われたが、ここ最近は扱う素材が更なる高みに辿りつこうとしている。
近江牛を始めとして、純但馬血統や37か月にも及ぶ長期肥育、そして熟成や逆に屠畜すぐのフレッシュなもの等、伊藤さんの舌で厳選された素材が目の前を埋め尽くす。
そしてそれら極上素材がさらに昇華したコースへと変貌する。


お出汁
牛蒡と春菊、そして牛肉のお出汁。
ほっこりと染み渡る滋味深い味わい。
満足度 4


タンの昆布締め
根元部分の薄切りはねっとりとした舌触りと舌の上で踊るような旨みがあり、塩昆布とポン酢で旨みの輪郭がしっかりと浮き上がる。
また、タンの皮と身の間は量が取れない希少部位だが、コリコリとした心地良い食感に、わさび醤油で甘みがより際立つ。
満足度 5



ガリの漬け
この日は無理を言ってお店を1時間早く開けてもらったのだが、お店に着くとちょうど伊藤さんが届けられたばかりのサガリの掃除をしている。
朝屠畜された個体のサガリBSE検査を終え、夕方にお店に運ばれてくる。
これは内臓屋さんとの相当なコネクションがないと出来ない芸当だ。
そしてこの鮮度抜群のサガリを軽く醤油にくぐらせ漬けに。
朝締めでしか体験できないプリプリの食感に、雑味のないすっきりとした味わい。
普段食べているサガリとは全く別の食べ物に思えてならない。
ちなみに日数ではなく時間で考えると、朝締めは屠畜後だいたい12時間以内、翌日であれば36時間以内であり、その差は歴然だと言える。
満足度 5


サーロイン
昼に“くいしんぼー山中”で食べたのと同じ個体のサーロイン。
福永さんが肥育した純但馬の近江牛は月齢37か月ほどの雌で、骨格がしっかりとした味わいで赤身の甘みにサシの甘みが加わり、飲み込む瞬間まで自己主張を続ける。
満足度 5

テールの蕪蒸しのお椀
割烹の経験値はすこぶる低いが、それでもこのお椀の凄さは十分過ぎるほど分かるう。
満足度 4


雲丹の蒸し鮨 サガリ乗せ
温かい雲丹の蒸し鮨に冷たいサガリが口の中で見事に調和。
ガリのフレッシュな旨みに雲丹の濃厚さが加わる。
満足度 4

イチボ握り
先ほど食べたサーロインと同じ福永さんの個体のイチボを握りで。
肉の味の濃さ、甘み、そして深み、その全てが最高水準。
満足度 5+

サーロインのスモークと海老芋の牛脂揚げ
元々の脂質の良さもあるが、スモークされることで驚くほど脂の重さが消され、旨みの凝縮感がある。
海老芋は牛脂で揚げられることでしっかりとした牛肉料理として成立している。
満足度 4


ヒレの握り 松茸乗せ
ヒレは低温調理され、タンパク質が凝固するギリギリの温度で仕上げられ、魅惑的なピンク色に。
繊細なヒレが低温調理によってより滑らかで、豊かな旨みを膨らませている。
満足度 4

白センマイと柿と辛子酢味噌和え
“名門”のセンマイを彷彿させる太い根元を和え、最後にホオズキの身が乗せられる。
白センマイは生の蛸のような食感。
満足度 4


しゃぶしゃぶ
福永さんと安田さんのサーロインをしゃぶしゃぶで食べ比べ。
どちらも純但馬血統の雌の近江牛で月齢は37か月。
そして福永さんのサーロインはフレッシュな状態で、安田さんのサーロインは寝かしてある。
肉だけで突出しているにもかかわらず、ここにぶっとい松茸が1本投入され、肉の香りと絶妙なマリアージュをみせつけてくれる。
肉の味の濃さは福永さん、そして舌触りとサシの甘みは安田さん。
肉の本来のポテンシャルはサーロインに一番出ると思っているが、どちらも文句のつけようがない。
満足度 5




ランプのステーキ
福永さんの肉を相当研究した火入れ。
そこまで厚くならない程度で、中には赤みを残して表面にしっかり火を入れる。
溶けるような肉ではなく、がっつりと歯茎に広がる旨みは他では味わったことのないレベル。
純但馬をサシに拘らずに丁寧に育て上げた結晶がここにある。
満足度 5



サーロインのステーキ
ステーキも福永さんと安田さんの食べ比べという豪華さ。
生産者によるベクトルの違いが如実に表れたステーキは、もはや完全に好みの問題で身震いする程のレベル。
生産者による素材の違いをも掴んだ絶妙な火入れも見逃してはいけない。
満足度 5


(福永さんのサーロイン)


(安田さんのサーロイン)



すき焼き
このすき焼きを食べて人生観が変わった。
安田さんの同じ個体のリブロースの薄切りをすき焼き鍋で香ばしく焼かれた瞬間に伊藤さん特製の割下が投入され、最後は白トリフが吹雪のように豪快に舞う。
これには、白トリフなどという食材はお金持ちの自己満足に過ぎないと勝手に思い込んでいたいた自分を恥じるしかなかった。
鼻孔に広がる芳醇な香りはもちろん、肉と一緒に火を入れられた白トリフからは旨みすら爆発しているようだ。
肉は最高峰、割下は唯一無二、それに最高級の白トリフ、この3種の神器が人生最高のすき焼きとなった。
満足度 5++







TKG
白トリフの香りで満ちた卵でTKG。
さらにそこにも白トリフを追加。
至福の瞬間です。




独自のアプローチで牛肉の可能性を探求する伊藤さん。
その伊藤さんが魅せる他を圧倒する絶対的な世界。
牛肉の天才に乾杯。