No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2014年11月10日 くいしんぼー山中


昔ながらの黒毛和牛とはどんなものなのだろうか。
本物、偽物という言い方ではなく、「昔ながら」という表現が正しいのではないかと思う。
牛肉自由化をきっかけに霜降り信仰へ傾斜していった黒毛和牛から「昔ながら」の良さが失われつつある。
こんな事を書くとお世話になっている方々から怒られるかもしれないが、自分が食べて旨いと思う黒毛和牛は急速に減っていっているように感じる。
脂質を無視してとにかくサシを入れること、味よりも早く大きくなることに主眼が置かれた個体。
そんな個体が溢れかえる現状だからこそ、赤身信仰やドライエイジングブームが起こるのは当然の結果なのかもしれない。
だからこそ、益々自分がリスペクトする生産者の個体ばかりに目が行ってしまうのだ。
私が心から愛する黒毛和牛は世界一の食材だと思う。
そんな黒毛和牛の「昔ながら」の味を教えてくれるのが”くいしんぼー山中”だ。
“くいしんぼー山中”で食べれる個体を肥育する福永さんは、雌の純但馬牛の中でも拘りの血統をセリ落とし、じっくりと成熟するまで37,38ヶ月まで当たり前のように飼う。
ご本人はご自身が特別なことをしていると思っていない。
当たり前のことを続けてきただけだと言う。
そしてその当たり前を支えてきたのが”くいしんぼー山中”の山中さん。
福永さんの拘りの結晶を30年近く買い支え続けているのだ。
山中さんの話す「昔ながら」の黒毛和牛とは、肉色は小豆色で肌理が細かく、肉にテリとツヤがある。
ビタミンコントロールを一切していない脂は真っ白ではなくクリーム色。
それが健康で旨い「昔ながら」の肉なのだと。


コンソメスープ(冷製)
とにかく良い肉を大量に使うことがコツ、と山中さんが話すコンソメスープ。
口に含めば、一切雑味がなくピュアな旨みが舌から脳まで走る。
牛肉の魂が乗り移っているようだ。
満足度 4

最上近江牛特選ロースステーキ
普段見ているものより1回りほど小振りなランジリよりのサーロイン。
1回りどころか2回りは小さいリブロース
リブロースは不思議なことに巻きやエンピツ部分の大きさは普通なのだが、とにかく芯が小さく、ほとんどエンピツと変わらない大きさ。
今回だけでなく、”くいしんぼー山中”ではいつもこういったリブロースなので、福永さんの子牛選びや肥育方法によるのだろう。
もう1つ特徴的なのは、その深い肉色。
昔の牛肉は小豆色だったと何度も聞いたことがあるが、これこそ真に小豆色の牛肉。
サーロインは、と畜して1週間経っていないことが分かるようなぷりぷりとした弾力。
だが、肉の味の濃さは普段食べているものと比べて、群を抜いて濃厚だ。
それ以上に驚かされるのがリブロース
芯はサーロインよりサシの甘みや繊細さが加わり、巻きやエンピツもそれぞれ違った食感で他の追随を許さないレベル。
満足度 5+

(サーロイン)


リブロース


最上近江牛特選ビフカツ
ヒレも細い。
ど真ん中のシャトーブリアンですら普通の半分程しかない。
しかしここまで肉の味が主張するヒレは食べたことがない。
そして衣やデミソースと三位一体となったビフカツは最後の晩餐に食べたくなる程。
我が生涯に一片の悔いなし。
ちなみに初めて塩でも食べたが、デミソースを超えるポテンシャルを持っている。
満足度 5++



ハンバーグ
トロトロの柔らかいもの、肉々しいもの、ジューシーなもの。
ハンバーグの好みは千差万別だが、私が個人的に日本一旨いと思うハンバーグはこれ。
細かくミンチにされてふわふわ柔らかいのだが、ここでも肉の味の自己主張が強い。
そして真ん中の卵との相性も奇跡的。
満足度 5

ビーフカレー
コンソメスープと同様、牛肉そのものが乗り移ったような味わい。
それをスパイスが見事にまとめ上げてくれている。
満足度 5

今回のは今まで”くいしんぼー山中”で出会った中では最もサシが入った個体であった。
誤解されている方もいるかもしれないが、山中さんはサシを否定したことはない。
肉の味ではなくサシだけを追求した血統やビタミンコントロールで無理にサシを入れることを否定しているだけ。
純但馬牛を健康的にしっかりと長期肥育し、結果としてサシが入ったものであれば、よりサシの入った方が高く評価しているくらいだ。
これからTPPがどうなるか分からないが、牛肉の流通がどうなろうと、”くいしんぼー山中”で食べれる牛肉は何も変わらないだろう。
そして日本の黒毛和牛が未来永劫発展していくための答えはここにあるのではないかと思う。