No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2014年12月4日 平


千代田線湯島駅を出ると目の前に広がるのはちょっと怪しげなお店と飲み屋さん。
地下鉄入口すぐ裏の路地に入り、軒を連ねる飲み屋さんを尻目に目的のお店に向かう。
そのお店の存在を知らない人は気付かないであろう看板が今日も明かりを灯している。
看板には、ルビー色の下地から浮き上がる『炭焼すてーきと、おさかなのお店 平 TAIRA』の文字。
場末のスナックを彷彿させる店内はスナックの居抜きそのままで、7人も入ればギュギュウなカウンターのみ。
後ろに小さなテーブルが1つあるが、そこは何年も前からただの荷物置きと化している。
テーブルに腰を下ろしても、ここまでに旨い肉への期待を高めるものなど1つもない。
しかし、見るからに旨いものを知っていそうな風貌の店主・目崎さんに何がたべれるのか声をかけた瞬間から全てが動き出すはずだ。
満面の笑みと共に冷蔵庫から次々に出されるお肉。
ヒレ、サーロイン、イチボといった部位を中心に、サシが多いものや少ないもの、熟成期間の違うもの等、肉好きであればあるほど食べる肉を選ぶのに時間がかかってしまう。
人数が多ければ何種類か頼んでシェアすることをおすすめしたい。

甘みが強いのに脂の切れが良いロースも間違いないが、この日はヒレを3種類食べ比べ。
赤身のしっかりしたヒレらしいヒレは、5cmを超える厚さで炭火の上に置かれる。
山盛りの炭火が入った七輪の端にはレンガが乗せられ、その上に網がセットすることで炭と肉の距離が調整されている。
表面はカリッと強めに火を入れ、中心は赤みが残っているが中心まで火が入り、ふっくらしっとりとした焼き上がり。
火入れによって眠っていた肉繊維が目を覚まし、わくわくと口の中で活動し始める。
鼻に抜ける香りも黒毛和牛ならではの芳醇なもの。





続いて松阪牛だという細かなサシが万遍なく散っているヒレ
赤身の味の濃さは先ほどのヒレに僅かに及ばないが、ヒレとは思えないサシのジューシーさと柔らかさには驚かされる。



3番目のヒレの前にはイチボも。
ヒレとは全然方向性の違う力強さが漲り、奥歯を押し返す弾力に負けじと力を込めれば、歯茎を伝って旨みが溢れ出す。



3番目のヒレに〆に。
ヒレのしっぽ側を薄切りにして醤油に潜らしてから炭火で香ばしく。
これを炊きたてのご飯に乗せてヒレ丼が出来る。
1口で目が覚めるようなインパクトは、問答無用でテンションを上げてくれる。



これだけ上質な肉を食べてしまうと、お世辞にもオサレとは言えない店内が不思議と居心地良く感じてしまう。
これも肉の魔力。
普段は銀座で高級ステーキを食べているような上流階級の人にこそ食べて欲しいステーキが”平”にある。
ギャップに腰を抜かすだろうが、その肉の虜になるだろう。