No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2014年12月24日 銀座 吉澤


牛肉が広く世の中に浸透した現代社会において『Authentic Beef』と呼んでも過言ではない牛肉がある。
牛飼いの名人が持ちうる技術と手間暇をかけて、コストを惜しまず、じっくりと気が遠くなるような時間をかけて肥育した特産松阪牛
黒毛和牛の中でも間違いなく最高峰に君臨する特産松阪牛の中でも今回の個体は飛び抜けたレベル。
この個体を肥育した牛飼い名人は畑(敬四朗)さん。
30代前半と言う年齢ながら、松阪で年に一度開催され特産松阪牛だけで争われる『松阪肉牛共進会』で優秀賞第一席(チャンピオン)に何度も輝き、若手ながらすでに名人と呼ばれる牛飼いだ。
黒毛和牛の肥育農家さんは生後8ヶ月程度の子牛をセリで購入して、約20ヶ月肥育させ出荷するのが平均的なので、我々消費者が口にする牛の出荷時の月齢は28か月程度が一般的と言われる中、今回の畑さんの牛は子牛購入後に通常の倍近い期間肥育して、出荷時の月齢はなんと47ヶ月。
(ほんのちょっとマニアックだが)血統も芳山土井-照長土井-鶴丸土井という兵庫県産但馬牛の中でも美方地方の血が濃い個体。
こんな個体が市場に出てくるのは、品評会や需要の増加によって年に1回、12月のこの時期だけ。
そして、こういった極上の肉が食べれるのが”銀座吉澤”だ。
47ヶ月の特産松阪牛との対面までは前菜を楽しむのだが、これがまた異常に豪華。
トウガラシを使ったタタキは、味付けが何も必要ないほど肉の味がしっかりとしている。
シンプルでありながら滋味深く、豊かな味わい。

一口サイズのミニッツステーキは、クラシックな料理法ながらその味わいは本物。
素材の力に一気に叩き込まれるような凄みがあるのだが、それもそのはずで、岡崎さんの近江牛雌のヒレ、しかも月齢41ヶ月が使われていた。

いよいよ特産松阪牛をすき焼きで食べる。
"吉澤"のすき焼き鍋は独特な四角形。
そこで1枚1枚仲居さんが焼いてくれる。
大皿に盛り付けられたのは飼い込まれた時間を感じさせる深い肉色のロース、ミスジ、バラ、カタ、カタロースといった部位。
同じすき焼きという調理法でも、やはり部位の違いは歴然で、それぞれが個性を放っている。
やはり最もインパクトを与えられたのはロース。
その食感から赤身の旨みの膨らみ方、そして香りまで、これぞ最高峰と言える。
もちろん他の部位も素晴らしいが、意外だったのがバラ。
焼肉では脂のきつさを感じやすい部位だが、まろやかに甘みと旨みが舌を包み込んでくれる。



(ロース)

ミスジ

(バラ)

(カタ)

(カタロース)

“銀座吉澤”では、その時その時で極上の枝肉を目利きがセリ落とし、純但馬血統だけではなく、長期肥育の雌牛が常時食べられる。
そして、飲食部の隣にある精肉部ではショーケースに並ぶ肉の生産者が分かるように展示されこう購入できる。
もちろん、今回の47か月の畑さんの特産松阪牛もだ。

こんな精肉店他にあるだろうか!?
肉好きが一度でもそのショーケースを覗いたら、肉を買わずにはいられない魔力を秘めている。