No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年5月25日 にくの匠 三芳


「和牛はその名の通り、『和』の食材。
その『和』の食材を昇華させるのが和食(日本料理)であるはず。
魚介類や野菜類へのアプローチはどこまでも深く、素材への拘りや多彩な調理法、どれも心から素晴らしいと感じることができる。
それに比べて、和牛をはじめとした肉へのアプローチはどうだろうか。
素材選びは魚介類ほどには至らず、調理法もシンプルな炭火焼きの枠を出ていないものがほとんどのように感じる。
これが本当に残念でならない。
本物の和食(日本料理)の料理人が、本気で和牛を扱ったらどんな料理ができるのか。
それを見てみたいし、食べてみたい。」
常々こんな想いを抱いているのだが、現時点で私の和食への欲求不満を解消してくれる唯一のお店が”三芳”だ。
『和』の食材である和牛の可能性を探求し続ける店主・伊藤さんの技術、そして想いが既存の和食の枠組みを壊し、新しいステージに歩みを進めてくれる。
肉を扱う全ての料理人にこそ、”三芳”の世界を体験してもらい、見たことも、感じたことも、食べたこともない世界に刺激を受けて欲しい。

お肉のお出汁
まずはすっきりとしていながら、じんわりと旨みが押し寄せるお出汁から。
この時点で今までの牛肉を扱うお店との違いを実感できる。
満足度 4

タンの昆布締め
"三芳"定番に一品であり、絶対に外せない一品。
ねっとりと昆布の旨みをまとったタンは芳醇な香りと旨みの両方を限りなく放つ。
満足度 5


サーロインのお造り
長期肥育した近江牛の生産者として有名な岡崎さんだが、今回の個体は純但馬血統の近江牛42ヵ月雌[個体識別番号1338333983]!
そのサーロインは枝肉のままじっくりと熟成され、真紅の美しい肉肌を見せる。
舌の上に乗せると、一気に華が咲いたかのようにサシの甘みが広がり、肉の味を確かめようとすれば、肉の旨みが舌に絡みつく。
素材そのものが最高なのはもちろん、香りや旨みの広がりを計算した温度調整も素晴らしい。
満足度 5


ガリのお造り
通常では考えられない当日の朝締めのサガリ
夕方オープン直前に運び込まれるそれらは、内臓屋さんとの強烈な関係があるからこそ可能になる。
BSE検査の為に今ではほぼ食べることのできなくなった朝締めの何が凄いか!?
通常朝締めでれば屠畜後12時間以内、それが一般的な翌日出荷であれば早くて36時間以内。
1日のズレは3倍以上の時間のズレになる。
鮮度が大事な部位になれば、それがそのまま味に響いてくるだろう。
ちなみに今回の今回の個体は繁殖・生産一貫の中川さんの近江牛35ヵ月雌[個体識別番号1260113707]。
その驚きは、サガリを口に入れて奥歯を押し込んだ瞬間に訪れた。
肉繊維の1本1本が呼吸を続けているかのような生命力に溢れ、いまだかつて経験したことのないプリプリ感。
すっきりとした旨みも無尽蔵に口の中で広がり続け、添えられていた雲丹との絡み合いも悶絶するしかないレベル。
満足度 5+


タンのお造り
プリプリとした食感も独特だが、最も衝撃的なのは脂の質感。
口の中でパッと脂が広がるのだが、スッと引いていき、こんな脂の切れが良いタンは滅多に食べれない。
満足度 5

サーロインのお造り
再度サーロインのお造りだが、今度は川岸さんの神戸ビーフ32ヵ月雌[個体識別番号1339283645]。
サマートリフが添えられたサーロインをまろやかな黄身醤油で食べる。
サマートリフや黄身醤油といったインパクトが強い素材と一緒でも、あくまで主役としての力強さを感じさせる川岸さんのサーロインは特筆すべきレベル。
満足度 5+

ヒレのお椀
低温調理された岡崎さんの近江牛ヒレは、全くストレスを受けずに火入れされており、ぷるんぷるんのワラビ餅のよう。
お出汁の上品な味わいにもホッとする。
満足度 4


サーロインと剣先烏賊
川岸さんの神戸ビーフのサーロインに合わせられているのは剣先烏賊。
牛肉と烏賊の組み合わせというのは初めてで、食べる前は奇を衒っているだけのように感じたが、食べるとそのマッチングに興奮せざるを得ない。
烏賊のねっとりとした食感、甘みがサーロインの旨みの輪郭を際立たせる。
満足度 4

角煮
川岸さんの神戸ビーフのネックは角煮にされ、鮑と一緒に塊でゴロンゴロンと鍋に詰まっている。
出汁には鰹が効いていて、あっさりとしていながら滋味深い味わいを実現している。
何よりこんなに旨い角煮は豚も含めて食べたことがない。
いや、人生最高の煮物との出会いだ。
箸で簡単に切れる程柔らかく煮込まれ、しっかりと出汁が効いているのだが、肉の存在感は半端ない。
それに肉薄した存在感を出していたのは巨大な鮑。。
満足度 5




ミスジの土佐酢ジュレかけ
ミスジの中でも最も滑らかな食感の先端部分だけしか使わないという土佐酢ジュレかけ。
チュルンっとした食感で、さっぱりと口に入っていく。
ちなみにミスジは川岸さんの神戸ビーフ
満足度 4

しゃぶしゃぶ(神戸ビーフ
しゃぶしゃぶの食べ比べ。
まずは川岸さんの神戸ビーフのサーロインを出汁に潜らせる。
出汁の旨みをまとうと同時に、細かなサシが一層滑らかになり、口に含んだ瞬間に爆発力のある旨みを放つ。
満足度 5




しゃぶしゃぶ(近江牛
川岸さんのサーロインと食べ比べるのは、岡崎さんの近江牛のサーロイン。
脂のインパクトもあり、しゃぶしゃぶで味わいが活きる。
川岸さんのサーロインに比べると軽さがあるが、食べ比べなければ分からないレベル。
満足度 4

シャトーブリアン(近江牛)
岡崎さんのシャトーブリアンはふんわりとしたヒレらしい食感で、これ以上ない繊細さを持つ。
肉の旨みも十分で最高。
満足度 5


シャトーブリアン神戸ビーフ
川岸さんのシャトーブリアンは弾力があるのだが、この弾力がプリッとした心地良さで、同じ純但馬血統でも先ほどの近江牛とは旨みの濃さが違う。
満足度 5+


サーロイン(近江牛
脂のインパクトがありながら重さはなく、あっさりとした余韻がある。
噛んでも噛んでも尽きることのない味わいには脱帽。
満足度 4

サーロイン(神戸ビーフ
見た目はサシが入っているが、食べると印象がガラッと変わるほど肉の味がしっかりと感じられる。
サーロインの繊維に歯が入り込むほどに旨みが広がり、飲み込んだ後も舌が余韻をまさぐってしまう。
満足度 5