No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年11月11日 くいしんぼー山中



牛肉の世界にハマり始めた頃、雑誌やテレビ、ネットの情報を重宝し、それらを盲目的に信じていたかもしれない。
そして欲望の赴くままに食べて食べて食べ込むにつれて、それらの作り込まれた情報がほとんど必要なくなった。
膨大に溢れている情報の中に僅かに混じる本当に必要な情報だけを拾い上げるだけだ。
溢れた情報に溺れない為には最低限知っているべきことがある。
食は結局のところ好み。
好みは千差万別。
唯一無二の正解など存在しない。
だからこそ、溢れる情報を鵜呑みにするだけでなく、様々なことを知った上で自分の好みで選んで欲しい。

私の肉人生の中で最も衝撃的だった牛肉を食べたのは”くいしんぼー山中”。
今まで食べ込むことで出来上がった概念が一度全て崩れ去った。
それほど今まで食べてきた牛肉と違う。
全くの別物だった。

店主・山中さんが牛肉に大事だとおっしゃるのは『照りと粘り』。
それらを併せ持つ牛肉は福永さんが肥育する近江牛
兵庫県産但馬牛を素牛とし、特に美方郡産を中心に肥育を行っている。
月齢はそのほとんどが38ヶ月位で、もちろん全て未経産の雌牛のみだ。
そして味を追求した結果、一切のビタミンコントロールを行わない。
福永さんの近江牛はセリに出ることがなく、山中さんの元に送られる。
高値で競り落とされる様にサシを入れる必要がないのだ。
だからと言ってサシが不要なわけではない。
ビタミンAを欠乏させることなく、じっくりと手間暇をかけて飼い込んだ牛であるという条件の下、サシは無いよりもあった方が旨いと言う。
福永さんがここまで拘れるのは山中さんあってのものであろうし、山中さんが理想とする牛肉を扱えるのは福永さんあってのものだろう。
ここまでの関係が構築できて、初めてこの奇跡の牛肉が食べれるのだ。
そしてこれほどの牛肉であればこそ、鮮度が良ければ良いほど旨い。
屠畜して冷蔵庫で冷やし、カットを行い、それを発送するという工程を踏まえると、最も鮮度が良い状態で食べれるのが屠畜2日後。
そして、今回の我々の予約2日前に山中さんと福永さんが屠畜を行ってくれたのだ。
最高の状態を食べさせてくれる為に。
ロースの塊に包丁を入れ、スーと引くと見事な断面が現れる。
良い牛肉を表現する言葉として『小豆色』という言葉があるが、これ以上の小豆色は見たことがない。
そして余分な筋が丁寧に削ぎ落とされ仕上がっていく牛肉は何とも艶っぽい。
見ているだけで別世界に来ていることを実感するほどだ。
そしてここから山中さんに全てを委ねる。

炙り牛刺し
以前であれば牛刺しとして食べれたが、今は炙ってもらってから食べる。(写真は炙る前)
部位は鮮度が最も重要なランジリとフィレミニヨン。
どちらも最初に舌を刺激するのは脂ではなく赤身部分。
ぐっと押し込んでくるような味わいと赤身自体の甘みが抜群に濃い。
一瞬遅れて脂のまろやかな甘みが舌全体を覆う。
ランジリはより滋味深く、フィレミニオンはより繊細な舌触り。
満足度 5+










(炙る前の状態↓)



冷製コンソメスープ
ジュレのようなコンソメスープは、牛肉そのものの味わい。
「コツは良い牛肉を沢山使うだけ」という山中さんの言葉に頷くことしかできない。
雑味のない旨みの強い最強のコンソメスープだ。
満足度 5


特選近江牛ヒレステーキ
普段見慣れた雌のヒレと比べても小さな小さなヒレ
ヒレまで当たり前のように濃い小豆色で妖艶な色気を放っている。
一噛みするとほどける様な柔らかさはない。
しかし肉片からは生命力を感じさせる旨みが放たれる。
どこまでも透明で、どこまでも濃度の高い凝縮した旨みだ。
満足度 5++





特選近江牛ロースステーキ
山中さんがリブロースに包丁の刃をあて、スッと下ろす。
初めての人は、パタッと倒れたリブロースの断面を見て言葉を失うだろう。
今まで見たこともないような小豆色。
福永さんの純但馬血統の近江牛だからこその肉色だ。
そして丁寧に全ての筋や血管を取り除き鉄板で焼かれる。
奥歯で肉片を押しつぶした瞬間に、カプセルが割れたかのように溢れ出す濃厚な旨み。
今まで食べたことのあるどんな牛肉とも違う、”くいしんぼー山中”だけでしか感じたことのない旨さだ。
焼く前は強そうに見えた塩胡椒も実は絶妙で、牛肉の旨みの全てをさらけ出してくれる。
ロース芯やエンピツも最高に旨いのだが、ぶるんぶるんした巻きの食感は、この世の中でここにしかない幸せを与えてくれる。
満足度 6(5++でも表現できない旨さ)













特選近江牛ヒレカツ
サシのほとんど入らない濃い小豆色のヒレは、脂で揚げてからオーブンで仕上げられる。
衣に歯を立てれば、中に詰まった芳醇な香りが一気に押し寄せる。
ヒレも今まで食べてきている黒毛和牛とは一線を画す味わい。
どこまでも滋味深く、旨みがストレートに響く。
満足度 5++





ハンバーグ
ハンバーグの好みは人それぞれ、そして全国には多種多様なハンバーグが群雄割拠の世を作っていることも心得ている。
だが、あえて言わせて欲しい。
“くいしんぼー山中”のハンバーグが一番だと。
ふんわりとした食感、肉そのものの旨み、デミグラスソースと卵とのマッチング、それら全ての心が震える。
満足度 5+


牛肉に係る全ての人に”くいしんぼー山中”を知って欲しい。
これだけが正解だとは思わない。
しかし、これほどの和牛が存在することを知って欲しい。