No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年11月11日 にくの匠 三芳


和牛はその名の通り、『和』の食材。
その『和』の食材を昇華させるのが日本料理であるはず。
魚介類や野菜類へのアプローチはどこまでも深く、素材への拘りや多彩な調理法、どれも心から素晴らしいと感じる。
それに比べて、和牛をはじめとした肉へのアプローチはどうだろうか。
和牛を愛するが故に、日本料理に携わる方々に怒られてしまうことを承知で、あえて言わせてもらいたい。
素材選びは魚介類ほどには至らず、調理法もシンプルな炭火焼きの枠を出ていないものがほとんどではないだろうか。
これが本当に残念でならない。
本物の日本料理の料理人が、本気で和牛を扱ったらどんな料理ができるのか。
それを見てみたいし、食べてみたい。
しかし、世の中にはそんな夢を叶えてくれるお店が存在する。
それが“三芳”だ。
最近流行の肉割烹とは素材、調理法、全てが別次元で一線を画す。
まさに肉好きの理想郷としか言いようがない。

そしてこの日用意されていた牛肉が凄い。
4年に1度全国の但馬牛を集めて開催される『全国但馬牛枝肉共進会』の為に川岸さんが丹精込めて肥育した個体だ。
個体識別番号は1409302542、血統は丸宮土井-北宮波-菊照土井、月齢37ヵ月の雌。
しかも、しっかりと成熟した個体には熟成しては決して味わえない旨みを感じるが、その旨みを最大限味わえるように屠畜5日後という素晴らしい状態だ。
お肉のお出汁
香り豊かな滋味深い出汁にしっかりと牛肉の風味が漂う。
満足度 4


タンの昆布締め
昆布締めされたタンからは濃縮した旨みが放たれ、舌の上で旨みが躍り出す。
特別に出してもらった皮ぎしはコリコリとした食感が心地良く、甘みもぐっと押し寄せる。
塩昆布との相性も抜群。
満足度 5



ラムシンとイチボのタタキ
遂に川岸さんのあの但馬牛の登場。
炭火でさっと表面を炙り、中はレアに仕上げることで素材が本来持つ力強い味わいがダイレクトに届く。
肉や肉汁に舌が触れた瞬間に、舌全体が旨みに巻き付かれたような錯覚さえ覚える。
ラムシンは肉繊維がほどけるように繊細で、イチボは赤身とサシが絶妙なバランス。
後半は更にアルバ産の白トリュフが降りかかり、平衡感覚を失うほど衝撃を受けた。
満足度 5+



(ラムシン)

(イチボ)

ユリ根のお豆腐とテールのお椀
ホロホロと柔らかくなったテールの旨みをじんわりと優しい味わいを広げるユリ根のお豆腐が受け止める。
見事なバランスの一皿。
満足度 4

ミスジの握り
ちょっと肉厚なミスジに格子状に細かく包丁が入る。
牛肉の握りと言うと、シャリと牛肉がバラバラな印象を受ける場合が多いが、このミスジはシャリと一体感が素晴らしい。
何よりここまで味の濃いミスジには滅多にお目にかかれない。
そして、カウンターで肉を握る伊藤さんの姿が何ともカッコいい。
満足度 5



サーロインの握り
口の中に放り込んで固まる。
脂が異常に旨いのだ。
そして風味だけ残して潔く消え去る。
赤身の味はシャリを従えて、舌を占拠する。
満足度 5+



三角バラ
三角バラは包丁でたたいてご飯の上に。
三角バラの脂は他の部位よりも融点が若干高く感じるものだが、これほどまでにサラサラした脂の三角バラは初めて。
満足度 5



海老芋の揚げ物
牛肉ではなく海老芋を揚げてあるのだが、香りは間違いなく牛肉。
その秘密は海老芋を揚げた油にある。
但馬牛の脂から丁寧にとったヘッドで揚げているのだ。
それに紀州の本カラスミをかっぷりとかければ至福の時間が約束される。
満足度 5

ミスジの冷しゃぶ
ミスジは軽くしゃぶしゃぶされてから、蕪のすり流し、キャビアと共に。
つるりとした舌触りのファーストコンタクトの後には、ミスジとは思えないほど肉本来の自己主張がある。
蕪のすり流しやキャビアとも高い次元でマッチングしている。
満足度 5

サーロインのしゃぶしゃぶ
しゃぶしゃぶすると肉の味がダイレクトに舌に届きにくく、去勢の脂っぽい肉にあった食べ方という印象があったが、このサーロインのしゃぶしゃぶによって全ての先入観が崩れ去った。
軽くしゃぶしゃぶされることで、肉の味の輪郭がくっきりと浮き出て、香りもより芳醇に仕上がっている。
黒トリュフの香りも相乗効果をもたらす。
満足度 5+



シャトーブリアン
サシがない分ダイレクトに肉の繊細さと味わいの深さが伝わり、その旨さに言葉を失う。
柔らかいだけではない。
肉の味が濃いだけではない。
すっきりとした嫌味のない、ピュアな旨みの塊なのだ。
満足度 5+






サーロイン
脂の質、肉繊維が溜め込んでいる旨みの持つポテンシャル、それら個体によるの味わいを差を最も感じさせてくれるのがサーロイン。
そしてそれら全ての最高峰がここにある。
いくらでも食べれるのではなく、いくらでも食べたくなる牛肉だ。
満足度 5++



リブロースのすき焼き
こちらも川岸さんの神戸ビーフだが、超長期肥育のフレッシュな個体ではなく、通常の長期肥育で更に長めに寝かせていたリブロース
熟成することでほぐれやすくなったロースの食感は素晴らしく、深みのある割下、アルバ産の白トリュフの香りと旨み、すき焼きの最高峰と言っても過言ではない。
満足度 5+









タン、そして最後のすき焼きのリブロースを除いて全てが超長期の神戸ビーフ
その全てを余すところなく堪能することが出来た。
今までの川岸さんの神戸ビーフに心を奪われていたにもかかわらず、更にそれを飛び越える超長期肥育の効果を身を持って知った。
今、歴史が変わろうとしているのかもしれない。