No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2017年10月5日 金竜山

白金高輪にある名峰”金竜山”。
昭和の雰囲気を色濃く残した外観と内装、そして笑顔が素敵なお母さんが作り上げる空気感は、嫌でも焼肉を旨く感じさせる。
この雰囲気の中で出てくるお肉はどれも凄い霜降り。
今でこそ珍しくはないが、私が”金竜山”に月一で通っていた15年ほど前は、ここまでの霜降りが食べれるお店は他に無かった。
しかもお店の雰囲気とお肉のギャップに、より一層テンションが上がったものだ。
また店内はテーブルが4つで、18時の回と20時の回で1日2回転(稀に16時の回もある)。
1日8テーブルのプラチナチケットだ。
人が人を呼び、どんどん予約が困難になってしまうのも頷ける。
世の中にはお店を流行らせるためにわざわざ予約困難にするお店も存在するが、”金竜山”はそういったお店とは一線を画す。
やっとの思いで予約が取れ、名峰の麓に辿り着いたクライマーに、ささやかながら私が実際に登頂するルートを案内し、参考にしてもらえたらありがたい。
麓から険しい雪山に踏み出す第一歩は重要だ。
その第一歩として選ぶのであれば上タン以外にありえないだろう。
肉の繊維に対して直角ではなく水平にカットされた長方形のタンは、薄切りながらその内部にたっぷりの肉汁を含み、表面積の大きさはより強いサクサク感を実現している。


最高のタンで入山したテンションで、ついついカルビに手を出してしまいそうになるが、一旦気持ちを落ち着けてハラミを食べる事をオススメしたい。
麓まで小雪がチラついているが如く、ハラミにも美しいサシが入っている。

身体も温まってきたところで、ここから本格的に雪山の傾斜がきつくなっていく。
“金竜山”のカルビは4種類。
並→中→上→特上、と登れば登るほど雪の様なサシは強くなり吹雪いてくる。
初心者クライマーであれば並カルビから登るのをオススメするが、ベテランクライマーは中カルビから入るのが常套手段。
もちろん”金竜山”の並カルビは、並カルビかどうかを聞き返してしまうほど上質でサシが入っている。
中カルビは粉雪のような細かなサシがびっしりと入ったザブトン。
薄いカットなのもあり、口の中で溶けて消えてしまうのも一瞬の出来事で、後には甘みがじわーと広がっていく。

体力にものを言わせてがむしゃらに登るだけが全てではない。
適度な休息を挟みながら、山頂を目指してこそ一流のクライマーと言える。
その休息として選ぶのは上ミノとコブクロがベスト。
肉厚な上ミノはザクザク、コブクロはプチッと弾ける食感で、登頂の流れのアクセントとしては最高だ。


休息後は上カルビ。
部位は巻きだろうか!?
ホワイトアウトかと思うほどのサシに包まれている。
炎を上げる炭の上で焦がさないように火を入れ、たっぷりタレに漬けた後は、白米の上で数回バウンドさせ一気に頬張る。
どんなにサシが入っていても、”金竜山”ならではの特製のタレが脂のしつこさをあまり感じさせない。
このタレの技術が本当に素晴らしい。


そして遂に特上カルビで山頂に辿り着く。
特上カルビは見事なサーロインで、クライマー全員が必死にカメラのシャッターを切るほど。


雪山における吹雪に例えられるような、細かなサシが散りばめられているのはカルビだけではない。
山頂には特上ロースも存在する。
肩ロースの芯だろうか!?
小振りのロース芯は、サーロインよりも肉の味がしっかりと感じられ、口ほども程よい。


昔は無かったが、ここ最近はシャトーブリアンをここで選ぶ選択肢もある。
正直、ヒレとは思えない程サシが入っていて、タレで食べても重たさがあるので、柔らかさ最優先のクライマーやインスタ映え重視のクライマー以外には強くオススメはしない。
値段も相当高いので、お母さんも勧めてこない。
さて、下山もぬかりはない。
レバ塩でしっかりと鉄分を補給し、味噌ダレのタン焼きで〆る。
味噌ダレのほっこりとした甘みがタン先の硬さを心地良く感じさせてくれる。


無事麓に戻ってくると、その日の登山ルートの素晴らしさに満足しきっていることだろう。
肉質だけを考えれば、雌ではなく去勢メインの印象を受けるが、それを重たく感じさせないタレの技術があり、普段「赤身、赤身」と騒ぐような肉好きも笑顔にしてしまう力がある。
この素晴らしい日本の名峰にはいつまでも変わらず笑顔が溢れているだろう。