No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2017年11月8日 くいしんぼー山中 


私の牛肉人生に最も大きな影響を与えた牛肉。
毎日のように牛肉を、そして和牛を食べ歩いた。
昭和にタイムスリップしたかのような下町の焼肉屋から銀座の高級ステーキ屋まで食べ歩き、食肉市場の仲卸から生産者まで訪ね、とにかく牛肉について分かった気になっていた時期がある。
しかし、それは単なる思い上がりに過ぎなかった。
それを教えてくれたのが福永さんが肥育するマルキ牧場の近江牛であり、”くいしんぼー山中”で提供される肉料理の数々だった。

サシの入り具合や、増体を追求した改良では他県に見劣りする兵庫県の純但馬血統。
しかし、味という観点で見れば、間違いなく他を圧倒する。
その兵庫県産但馬血統の子牛を更に厳選し、特選近江牛と呼ぶに相応しい資質を見定め、月齢約38か月まで肥育する。
一般的な出荷月齢が26か月程度と考えると、その差は12か月。
どれほど手間をかけているかが分かる。

また、福永さんの近江牛は一切セリに出ない。
セリで高値が付くように無理に霜降りを入れる必要もなく、ビタミンコントロールは全く行わない。
とにかく味を追求し続けているだけなのだ。
この日、山中さんが用意してくれたのは福永さんの特選近江牛の中でも2日前に屠畜されたもの。
月齢が浅い個体はある程度寝かせないと味が出てこないことが多いが、生きた状態で成熟した個体は新鮮なほど旨いというのが山中さんの持論であり、一度でも屠畜2日後のフレッシュな状態で食べたことがあれば、その言葉に心から納得してしまう。
ロースに包丁を当て、力を込めると小豆色の断面が姿を現す。
上質な牛肉を現す言葉として小豆色という表現が昔から使われているが、”くいしんぼー山中”以外でこれほどの小豆色を見たことがない。
それほどまでに違う。
山中さんの言う「照り」と「粘り」が備わっているのも一目瞭然。

冷製コンソメスープ
牛肉の旨みをただただ凝縮したコンソメスープ。
素材である牛肉の味が全て。
福永さんの最高の近江牛の旨みの純度と強さが舌の上で踊るようだ。

フィレミニヨンとランジリの炙り
屠畜2日後だからこそ食べる事が出来るフィレミニヨンとランジリ。
これを炙って、中はレアな状態で頂く。
信じられないほど上品で滑らかな脂は、極上の本鮪を超えるのではないか。
そして雑味が一切ないピュアな旨み。
極上の素材と極限の鮮度が生み出す芸術品がここにある。






ロースステーキ
リブロースの一番肩側。
ここがまた別格の味わいなのだ。
ロース芯、巻き、エンピツ、それぞれがそれぞれの自己主張する。
一般的に市場に出回っている和牛とは全くの別物。
これこそが牛肉の味なのかもしれない。



ヒレカツ
ふわふわとした軽いヒレカツではなく、ぐっと旨みの溢れる力強さを感じさせるヒレカツ
デミグラスソースが抜群に旨いのだが、塩で食べても尋常じゃなく旨い。



カイノミのビフカツ
カイノミが切り落とされているのを見てしまった。
思わず「それも食べたいです」という言葉が口から出てしまう。
適度な弾力と濃厚な旨みを持つカイノミが口の中で衣と踊り出す。
これはとんでもないメニューを知ってしまった。


ハンバーグ
個人的に日本一旨いと思うハンバーグ。
細かなミンチでふわふわなのだが、溢れるような肉汁で食べさせるのではなく、肉そのものの味わいでお箸が止まらなくなる。
ハンバーグに使う部位は日々変わるようだが、この日のハンバーグは外ヒラと前バラを混ぜたものだった。
ハンバーグを少し残しておき、そこにご飯を投入してデミグラスソースと一緒に混ぜれば、極上のハンバーグライスが出来上がる。

カレーライス
牛肉の旨みとスパイスが見事なマリアージュを作り出している。
スパイスに負けない牛肉の存在感が素晴らしい。

福永さんの近江牛が最高であることを信じ続けて、何十年もそれを買い支えている山中さん。
その気持ちに応え、山中さんが納得する牛肉を肥育し続けている福永さん。
両者の信頼関係が、この奇跡の牛肉を生み出している。
誰もこの間に入ること出来ない。
出来ることは、この”くいしんぼー山中”で本物を食べ、何が本物なのかを知ることだ。