No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

くいしんぼー山中


日本一予約の取れないステーキ屋"かわむら"。
食通と呼ばれる方から各界の著名人が日々極上のステーキに舌鼓を打っている。
店主・河村さんは『和牛の持つ繊細さや味の深さが凝縮しているのはヒレであり、上質な和牛のヒレは水のような澄み切った味わいがある。』と言い、その繊細さを最大限味わうために分厚いヒレを40分ほどかけて丁寧にじっくりと焼き上げる。
河村さんのヒレステーキは日本で"かわむら"でしか食べれない唯一無二のものだ。
ふんわり、ぷっくりとした肉繊維の食感は喉越しまで官能的。
もちろん素材である肉質も良いのだが、"かわむら"のステーキを作り上げているのは肉質ではなく河村さんの焼く技術に他ならない。
お皿の上のステーキからは、河村さんの追い求める理想像を身をもって感じることができる。
そして河村さんと並ぶ拘り、思想をもった方が実はもう1人いる。
"くいしんぼー山中"の店主・山中さんだ。
山中さんの求めるステーキ、いや牛肉の姿は河村さんとは対極にある。
セリに出荷されずに"くいしんぼー山中"のために肥育される近江牛は、昔ながらの純但馬血統に拘り、平均38ヶ月と驚くほど長く肥育されている。
『肉は新しければ新しいほど良い。』と言い切る山中さんは屠畜2日後には最上級の近江牛を出してくれる。
最低2週間程度の熟成が常識と思われている世界で、これは驚くべきことなのだが、これが身はぷりぷりと程よい弾力があり、信じられないほど味が濃厚で身震いするほどだ。
特にサーロインは脂のしつこさなど微塵も感じられず、旨みが凝縮した奇跡のステーキ。
極限まで和牛の繊細さを追求した"かわむら"と、極限まで肉本来の味わい・旨みを追求した"くいしんぼー山中"。
ここに王道"あら皮"を加えた3つが日本最高峰のステーキ屋ではないだろうか。
"くいしんぼー山中"の存在自体が奇跡だが、その奇跡の瞬間を体験した感動もお伝えしたい。
コンソメスープ
温かいコンソメスープは初めて。
どちらかというと冷冷たい方が好きだが、温かい方も肉の味が凝縮されていてすこぶる旨い。
山中さん曰く『旨い牛肉を沢山使うことが大事』
満足度 4

近江牛特撰ロースステーキ
まず切り出されたロースの肉色が違う。
濃い小豆色で、じっくりと飼い込まれた極上の牛だったことが容易に想像できる。
鉄板を使って、強火で一気に焼かれる山中さんの火入れ。
繊細さはないのだが、肉の力強さをより強調するようだ。
奥歯を心地良く押し返す粘りのある弾力に、他のお店では食べたことのないようなしっかりとした旨み。
和牛経験値が上がれば上がるほど、肉本来の味わいや旨みに傾倒してきているが、その経験値を振り切る凄さ。
満足度 5++




近江牛特撰ビフカツ
濃厚なデミグラスソースに全く負けない凝縮した旨みを放つヒレ
インパクトのある衣とのマッチングもトラディショナルでありながら、他の追随を許さないもの。
素材である肉の旨さが全てを超越しているようにも感じてしまうほど。
満足度 5+



現在の格付け制度の弊害、熟成に付いて等々、山中さんとの肉談義は3時間以上に及んだ。
歯に衣着せぬ山中さんのお話は少々過激なものもあるが、それは和牛の現状を憂うからこそのもの。
肉好きはもちろん、普通の方にもこの奇跡の近江牛を食べて本物を知って欲しいのだが、むしろ生産者や食肉関係者にこそ食べてもらいたい。
理想を追い求めたいが、理想と現実の間で苦しんでいる方がいるとしたら、きっと何か感じることがあるかもしれない。
日本が誇る和牛の可能性を私はこの"くいしんぼー山中"で知った。