No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

にくの匠 三芳

焼肉、ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ、、、牛肉を楽しむ料理は様々な形で独自の進化を遂げているが、至極シンプルな調理方法が多い。
素材自体のポテンシャルが高いため、その持ち味を活かすことを考えると、こういった流れになりやすいのだろう。
逆に存在感が強すぎるため、手を加えることが非常に難しい一面もある。
また、食肉の歴史の短さがそのレパートリーの少なさにも繋がっている気がする。
そんな中、肉割烹として比類なき存在感を放っているのが"三芳"だ。
自己主張の強い厳選された素材の野性味を削ぎつつ、まろやかに他の食材と馴染ませ、そして和食として他の追随を許さない高みに引き上げる。
店主・伊藤さんの世界にこそ和牛の将来、可能性が秘められている。
お出汁
芋茎を使った出汁で優しく胃袋が起き上がる。
これから始まる夢の世界の入り口だ。

タンの昆布締め
まずは"三芳"の定番と言える根元の部分を縦に薄切りにしたもの。
ほんのりと立ち上る香り、そして深みのある旨さ。
食感もねっとりとしていながら歯切れも抜群だ。
初めて食べたのが身と皮の間の部分で、ちょい厚めに短冊状にカットされている。
こちらはコリコリとした食感にタンの甘みがより強い。
満足度 5



ガリ刺し
朝締め、つまりこの日の朝に屠畜した個体のサガリが入荷したとのこと。
こんな奇跡的な場面に出くわすとは、肉の神に愛されている証拠ですな。
今まで食べてきたどのサガリよりも身がプリプリで、一番驚かされるのが脂が信じられないほどすっきりとしていること。
満足度 5+


サーロイン
舌の上で蕩ける脂の甘みは強く、黄身の醤油漬けとの相性も最高。
赤身の旨みも脂の甘みや口溶けといった全ての要素が高次元で融合している。
満足度 4


ヒレのヅケの低温調理
ヅケにされた極上のヒレを低温調理でゆっくりと優しい火入れがされている。
いかに素材が良くても素材だけでは到達できない滋味深い味わい。
山椒をつけると味が引き締まり、また違った旨さ。
満足度 5


ヒレのヅケのお椀
あれほど旨かったヒレのヅケをお椀にするとどうなるか!?
出汁と合わさり、まろやかさが強くなる。
筍の食感とのコントラストも素晴らしい。
満足度 4

筍ご飯とハラミの角煮
口の中でホロホロと崩れる角煮はハラミ。
ちょっと濃く味付けされているのが筍ご飯とよく合う。
満足度 4

ガリ
朝締めのサガリに黄身の醤油漬けがかけられている。
ガリの濃厚な旨みに黄身醤油のコクが加わり見事なハーモニー。
とにかくサガリが旨すぎる。
満足度 5

ナマコの卵巣と里芋の揚げ物
不思議な食感のナマコの卵巣にねっとりとした里芋。
ここに牛肉は入っていないのだが、何故か牛肉の味がする。
これは自家製の牛脂で揚げているから。
満足度 4

タン元と行者ニンニクの中華風炒め
ゴロゴロとタンの根元部分だけをまな板の上に広げる伊藤さん。
その口からでた言葉は「どれ食べますか?」
どれも旨そうなのだが、その中から思い切って選んだ2個が贅沢に掃除され芯だけが残された。
これを炭火で焼くのかと思いきや、なんとフライパンで中華風に炒められた。
香ばしくパンチのある味付け、そしてザクザクとした歯切れ抜群の食感。
これだけで1食が成立してしまいそうなメニュー。
満足度 5




ウチヒラの霜降
土佐酢のジュレキャビアで飾られたウチヒラ。
ウチヒラ自体に派手さはないが、口に入れて噛み締めた途端に自己主張を始める。
満足度 4

ヒレのしゃぶしゃぶ
これほど細かく上品なサシが縦横無尽に入ったヒレにはそうそうお目にかかれない。
出汁をくぐるヒレはピンク色に頬を染め、香りと甘みをより豊かさにする。
見た目はサシが入りすぎているように感じたが、あっさりとしていて肉の味がしっかりとしている。
満足度 4


サーロインのしゃぶしゃぶ
しゃぶしゃぶは余計な脂を落として食べる言われたことがあるが、余計な脂なら最初から無ければ良いだけ。
そんなことを感じずにはいられない上品な一切の無駄のない脂。
脂の甘みも素晴らしいが、赤身の味も秀逸。
満足度 4


それにしてもここまで1人で食べれる人がいるのかどうかw
いよいよ〆に突入。
ヒレステーキ
毎回思うのだが、"三芳"の焼き場の担当者の火入れは見事としか言えない。
中は見事なピンク色だが、中心まで火は入っている。
そして表面はカリッと。
噛み応えと言えない様なヒレの繊細な食感に、舌の上で滑らかな肉片が踊る。
満足度 5


サーロインステーキ
一口噛み締めると痛感するのが肉の香りの良さ。
そして奥歯を伝って広がる旨みが凝縮した肉汁。
赤身とサシのバランスは言うに及ばず、肉の味の濃いロースは本当に旨い。
満足度 5

かつてこれほど平均点の高いコースがあっただろうか。
とにかく伊藤さんの世界の引き出しの多さと懐の深さは計り知れない。
究極という言葉を安易に使ってはならないが、"三芳"を究極と言わないのであれば、いったい何処に究極があるのだろうか。
ここ数日全ての記憶が消えうせるほどの感動を伴う旨さを体感した。