No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2015年7月2日 銀座 かわむら


約3か月ぶりに訪れた”かわむら”。
河村さんの手から生み出されるステーキをはじめとした牛肉料理は、最高峰という言葉が相応しい、とあらためて実感した。
河村さんの考える和牛の良さとは『喉越しと余韻』。
和牛だけが持つそれらの特徴を引き出すために使用される素材はヒレで、料理に応じて、シャトーブリアン、フィレミニオン、テートを使い分ける。
大理石のように磨かれたヒレを目の前で切り分ける河村さん。
ど真ん中のシャトーブリアンはとんでもない分厚さにカットされ、いきなり焼き台の上に。
ここから40分程かけて火が入れられていくのだ。
そして、前菜としてサシの入った同じ個体のフィレミニオンが出される。
ここ2回程強く感じるが、脂に粘りがなくパサついた感じで、肉の味も立ってこない。
これは去勢っぽい肉質なのと、提供温度によるのだろう。
続いてタルタルステーキ
これぞ河村さんの料理なのだろうか。
味付けがなされることで、フィレミニオンで感じたようなマイナスイメージを全く感じさせない凄さ。
付け合せのパンと一緒に食べるのも食感の妙で非常に旨い。
ここでお腹を温めるかのようにコンソメスープが運ばれる。
肉の全てをスープに移したかのような味わいは、”かわむら”だけでしか体験できない究極のコンソメスープ。
コンソメスープ西の横綱は”くいしんぼー山中”だが、東の横綱は”かわむら”ではないだろうか。

シャトーブリアン付近だろうか。
ステーキに使った部位より若干判が小さくなった辺りはビフカツとして。
塩胡椒といった味付けが一切されていないプレーンな状態のビフカツなので、1口目はそのままプレーンで。
2口目から塩、最後は特製のソースでいただく。
衣に包まれた内部のサシが溶け出しているが、赤身自体は綺麗な色を残す見事な火入れで、柔らかさで繊細な食感が作り出されている。
塩はもちろんだが、特製ソースとの相性も抜群。


唯一無二。
河村さんだけが完成させることができるヒレステーキの完成形。
一切のパサつきや雑味がなく、中心まで火がぴっとはいっているが、その身は綺麗なピンク色のまま。
プルンプルンの塊はフィレミニオンで感じたようなマイナスイメージは一切なく、滑らかに喉を滑り落ちていく。
ここまで官能的なステーキが他にあるだろうか!?
ため息を漏らすのが精一杯の最高のステーキだ。



“かわむら”ではハンバーグもヒレで作られる。
かなり細かくミンチされているので、ヒレ特有の食感はないが、脂に頼らずにふんわりと柔らかな仕上がりを実現している。
個人的にはもう少し肉の味の濃さを求めてしまうが、河村さんの『喉越しと余韻』という理想を考えれば、この形がベストという事に納得できる。

〆はヒレではなくサーロインを使った牛丼。
サシがきついタイプのサーロインだが、手切りで極薄にカットされたサーロインは重さを感じにくく、また味付けもそれを手伝ってくれ、満腹状態でも一気に食べれてしまう。

デザートまで食べ終わって、この日の河村ワールドを反芻すると、やはりステーキに凝縮した凄みがある。
雌で肉の味のしっかりした純但馬牛をあの火入れで食べたらどうなるのだろうか。
河村さんの求める方向性とは違うと知りながらも、妄想は尽きない。