No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2016年4月11日 政ちゃん

その存在をしてからずっと行ってみたいと思っていた焼肉界のレジェンド”政ちゃん”。
しかしながら、予約を取る術が全くなく、完全に諦めてしまっていた程なのだが、幸運にも予約をしている方から誘ってもらえる機会に恵まれ、遂に初訪問という念願が叶った。
この嬉しさを表現するのは難し過ぎる。
さて、“政ちゃん”に向かうアーケードにはディープな世界観が漂っていて、近所の方が日常に使われている精肉店というか内臓屋がいくつもある。
店内では当たり前の様に黒タンが捌かれたりしていて、今まで自分が知っている世界とは全然違う。
“政ちゃん”はアーケードから細い路地に入るのだが、看板はあるがそこに明かりは灯っていない。
一見さんが迷って入り込まないようにとのことだ。
店内はカウンターのみで我々は9名でぎゅうぎゅうに貸切。
お店の方は政ちゃんご本人のみなので、ビールなどを冷蔵庫から取ったりするのは常連さんの役割という政ちゃんルールがある。
政ちゃんも一緒に乾杯しながら世紀の宴が始まった。
まずは生ものから。
タンは脂の乗った根元の方で、チュルッとした舌触りにねっとりとした甘みが舌の上に広がる。

心臓はダレた様子は一切なく、むっちりとした食感で歯切れが抜群。

センマイは瑞々しさを残し、1噛み毎に食感を楽しめる。

生ものの後は焼き物で、まずは塩から。
ミノは間に脂がかんでいてミノサンドっぽい部分。
それを政ちゃんは素手でスリット入りの鉄板の上に乗せていく。
ここで政ちゃんからの焼き指南が入り、政ちゃんは素手でミノを裏返していく。。。
これも事前に聞いていた政ちゃん伝説の1つ。
暴挙という常識で焼き上げられたミノは、嫌な硬さとは違うしっかりとした食感があり、噛み締めれば脂の甘みが噴き出してくる。



続いてツラミ。
やはりここでも「肉汁が浮いてきたら裏返して○○秒」という政ちゃんの焼き指南が入る。
当然のことではあるが、政ちゃんの指南を無視して早めに裏返したり、焦げるまで肉を置いておくと政ちゃんの怒声を浴びることになる。
政ちゃんの指南通りに焼いたツラミはジューシーでありながら、筋の甘みもちゃんと口に広がる旨さ。



心臓は先ほどより厚めのカットで、サクッとした食感と滋味深い味わい。
2切れ目はキムチと一緒に食べることを勧められるが、一同当然これに従う。
そしてこれがまた旨い。
ちなみにキムチを冷蔵庫から出して盛り付けるのも常連さんの仕事。



塩タンは生で食べた部分よりも先側で赤身の強い部分。
コリッとした食感で、タン本来の味わいは強い。


ハラミはカットが小さ目ながら、肉汁が噴出が強烈で物足りなさなど微塵も感じない。
歯茎を伝い広がる旨みに身をよじる。


ここからいよいよタレに移るが、まずはアカセンから。
焼き易さと食べ易さを考えられたアカセンは綺麗に隠し包丁が入っていて、スリット入りの鉄板、しかもタレでも焦げずに綺麗に焼ける。
その食感はコリッコリで、そのすぐ後にはジュワーとした旨さ。


塩で食べたミノは脂がかんでいたが、脂がかんでいない部分は並ミノとして出してもらった。
こちらも綺麗な仕事が施されていて、政ちゃんは悪態をつきながら素晴らしい仕事を見せてくれる。

タレの主役はハラミ。
これがまたジューシーで、肉の味もしっかりとしていて旨い。
途中から政ちゃんがご飯をくれたので、バウンディングしてから頬張れば笑わずにはいられない旨さ。
更にタレハラミのお代わりまでお許しが出るという奇跡に感謝しきり。



最後は”名門”ばりのアイスクリームで宴終了。


最初から最後まで政ちゃんの口は本当に悪いw
しかしその口の悪さの中には自惚れや傲慢さは一切なく、あくまでも「旨い焼肉を食べてもらいたい」という想いがその根底にある。
それは政ちゃんが次の肉を切りながらもカウンターを常に見渡し、全員の焼き方や食べ方を気にする目配りや、カウンターから一歩出た時の人懐っこい笑顔と我々を気遣う言葉からしっかりと感じ取れる。
内臓業者に独自のコネクションを持っているのだろう、仕入れる素材は抜群。
味付けは特別なものを使用していないが、極力素材を浮き立たせるようなシンプル。
そして的確な焼き方と食べ方の指南。
予約の取れないお店が好きなお客さんではなく、本当に旨い焼肉と政ちゃんの人柄が好きなお客さんが集まり、自然と予約超困難店になった”政ちゃん”。
いつの日か再訪できる日が来ることを切に願う。
心から最高と言える名店だ。

灯さないはずの看板を政ちゃんが灯してくれた。