No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2013年10月3日 銀座 かわむら



旨いと言われるステーキはだいたい食べてきたつもりだ。
東京で言えば炉窯を使った"あら皮"系と呼べる"あら皮""哥利歐""ドン・ナチュール""トロワフレーシュ"、ヒレへの火入れが特徴的な"ゆたか"系と呼べる"ゆたか""かわむら""""ひらやま"、それ以外にも"うかい亭"や"加藤牛肉店"""などがその代表で、勿論東京以外にも大阪の"福多亭(炉窯)"、京都の"くいしんぼー山中""二教(ゆたか系)"など、とにかくひたすら最高峰を追い求めてきた。
だが、この中で一番旨かったステーキ屋さんは何処かと聞かれるとそれは非常に難しい。
私の印象では、肉料理というジャンルの中で最も肉という素材に対するアプローチの完成度が高いのはステーキである。
そのハイレベルな中から強いて挙げると、"あら皮""トロワフレーシュ""かわむら"の3つどれもが外せない。
牛肉という素材の中で究極に近いレベルを仕入れ続けている"あら皮"。
"あら皮"に引けをとらないレベルの牛肉の仕入れや黒毛和牛以外への挑戦を行い、炉窯を使ってサーロインの至高の焼き上がりを実現させる"トロワフレーシュ"。
黒毛和牛のヒレだけが表現できる世界を追求し、ヒレの至高の焼き上がりを実現させる"かわむら"。
この3つはどれもが他に類を見ない究極のステーキを体現しているのではないだろうか。


ヒレを扱わせたら、"かわむら"の店主である河村さんの右に出る者はいないかもしれない。
和牛という素材をヒレという部位で表現することに心血を注いでいる。
それはステーキだけでなく、ヒレカツヒレを使ったハンバーグに至るまで全ての料理から感じ取ることができる。


河村さんは、常連さんだけでなく初めてのお客さんに対しても接しやすい温かみのある笑顔で肉に挑んでいるが、いざ牛肉の話を始めれば、その内に秘めた熱い気持ちが伝わってくる。
河村さんは特定の生産者を追い求めていない。
以前雑誌のインタビューで、既に全国の生産者は肥育技術が分かっているのでブランドや生産者に拘っていない、といったような内容を読んだことがある。
私なりの解釈をすれば、これだけヒレを使っていれば、特定の生産者だけではどうしても賄いきれないこともあるだろう。
また河村さんが和牛に求めているのが喉越し。
勿論旨みも大事だが、それ以上に繊細さのある喉越しを大事にしているのだ。
そして河村さんが何度かおっしゃるのが「生産者への恩返し」という言葉だ。
これを考えれば、"かわむら"の牛肉についてしっくりくるのだ。
とは言いながらも10点満点でいうところの9点の素材であることは間違いない。
そしてそれを10点以上に引き上げているのが河村さんの究極の火入れなのだ。

過去を振り返る時に『もし』という言葉は良くないかもしれない。
だが未来のことであるならば『もし』という言葉は許されるだろう。
だからこそ私は食べてみたい。
『もし』河村さんが川岸さん、勢戸さん、田村さん、福永さんの但馬牛の雌のヒレの火入れをしたなら・・・。
これはヒレ好きの究極の夢だ。