焼ニシュラン【番外編】 -2013-
前回のブログ〔焼ニシュラン-2013-〕で2013年に感銘を受けた焼肉屋さんを発表したが、2013年は焼肉以外の肉料理でも非常に多くの感動を味わった。
そこで2012年同様に今年1年間で特に感銘を受けた焼肉以外のお店をここで【番外編】として発表したい。
これから私の2013年に感銘を受けたお店を発表するわけだが、これはあくまでも2013年の1年間に限った話であり、どんなに良いお店でも2013年に訪問してなければ載せることはできないし、2013年に訪問していたとしても、その時たまたま普段より感動が薄ければ載せていない、また逆も然り、ということを付け加えたい。
★★★【このお店の存在自体が奇跡だと思う】
[あら皮(新橋田村町)]
肉好きでその名を知らない者はいないだろう。
一度でも"あら皮"で食べた事のある人からはその類稀なステーキが絶賛される一方で、日本一と言われるその支払額もあまりに有名である。
余程ゆとりのある人や会社の接待経費を使える人以外は、行ってみたいと思っていても躊躇してしまっているのではないだろうか。
かく言う私もそういった中の1人だが、遂に2013年に初訪問を遂げた。
そして結論から言わせてもらうと、"あら皮"は別格であった。
ヒレも確かに凄い。
だが最も驚かされたのはサーロイン。
ぷるんぷるんとした滑らかな口当たりは私にとって初体験。
赤身にはどこまでの深みがあり、素朴でありながら力強い旨みで出来上がっている。
そして控えめながら上品な甘みを感じさせてくれるサシのバランスもかつてないレベル。
ステーキが冷めてしまった時には、普段食べているそれとの違いに目を見張ってしまう。
冷めてもしつこさなど皆無で旨みがいつまでの濃厚なのだ。
こんな牛肉が食べれるのは唯一"あら皮"だろう。
もしこのレベルの牛肉を常に提供しているのであれば、その仕入れにかかるコストは想像を超えたものであろうし、決して高過ぎる値段ではないと感じてしまう。
巷には"あら皮"と比べ物にならない品質の牛肉を使いながら、そこまで価格差がないようなお店もチラホラ見受けられる。
肉好きであれば、ぜひ一度はその扉を開いて欲しい最高峰のステーキ屋さんだ。
[トロワフレーシュ]
"あら皮"から独立し"ドンナチュール"を立ち上げに参加した森地さんが、更に独立して立ち上げたのが"トロワフレーシュ"。
スタイルは"ドンナチュール"に似ている。
"あら皮"のように生産者を絞っているわけではないが、その代わりに国内最高峰の目利きで選ばれたその時々で最高の黒毛和牛が届けられる。
また赤身の強いお肉が好きな人が喜ぶ短角牛がある。
また運が良ければ、短角牛以外にもドライエイジングされた黒毛和牛やフランスのオーブラックなど、森地さんが面白いと思った牛肉が色々と味わえる。
それらを引き立てるのも特製の炉釜の威力であろう。
だが、色々食べ比べて最も感動してしまうのはやはり黒毛和牛のヒレとサーロイン。
どちらもその分厚さを感じさせない食感と旨みの濃さがある。
また炉窯ならではなのか、牛肉の芳醇な香りが炉窯から出された瞬間から感じられる。
そして炉窯の扱いに関してもとにかく研究熱心で、焼きの理想型の一つを完成しているのではなかろうか。
また提供されるお皿の上の内容を考えるとそのCPの良さも最高峰と言える。
こういった高級と呼ばれるステーキを食べ慣れているほど、その素晴らしさに気付くだろう。
[かわむら]
炉釜のステーキを体験するとロースターでの焼きの限界を感じるときがある。
しかし、ヒレの焼きに関しては河村さんが炭火ロースターでの焼き上げるその芸術品は炉窯とは違った唯一無二の究極形かもしれない。
河村さんが炭火のロースターでじっくりと焼き上げるヒレは、とにかく繊細。
それは口当たりだけでなく喉越しでも感じられるほどだ。
真似できそうで決して真似のできないそのステーキは、素材の持ち味を際立たせる技術の結晶だった。
とにかく"かわむら"でしか味わえないステーキが確かにある。
よく言われるような『日本一旨いステーキ』かどうかは、私には分からない。
そう感じる人もいるだろうし、もしかしたら、そう感じない人もいるだろう。
ただ、『日本で"かわむら"でしか食べれない至高のステーキ』であることは確か。
このステーキを食べるためだけで、数ヶ月待つ価値は十分だろう。
[あら皮(神戸三ノ宮)]
東京の"あら皮"や"哥利歐"とは経営が違う神戸三ノ宮の"あら皮"。
『東の次郎は鮨を握り、西の次郎は肉を焼く!』と小山薫堂さんに言わしめ、肉焼き名人として賞賛されていた山田次郎さんのステーキをかつては食べることができた。
現在は次男の山田三也さんがシェフとして炉窯の前に立ち、表面を紙1枚の厚さでパリッと焼き上げながら内部はうっとりするような赤みを残して仕上げている。
一瞬生焼けかと思ってしまうその焼き上がりは、食べてみると中心までちゃんと火が入っていて、赤身の旨みが最高潮に解き放たれるアメージングな加減だ。
焼き技術もさることながら、最も驚愕すべきは素材である牛肉そのもの。
ここまで味わい深く、繊細な食感のものには生まれてこの方出会ったことがない。
特にサーロインは我が人生No.1と言える。
あまりの感動に山田さんに牛肉について尋ねたのだが、この神戸三ノ宮の"あら皮"で食べれる牛肉は、三田の特定の生産者の下で"あら皮"専用の飼料を与えられたここでしか食べることのできないものということだ。
牛肉を食べて震えた経験のない人は、ぜひ神戸三ノ宮の"あら皮"を訪れてみて欲しい。
[三芳]
八坂神社のほど近く。
伝統ある歴史と格式を感じさせる祇園の街並みに溶け込んだ店構え。
白地に"三芳"と染め抜かれた暖簾をくぐると、そこには伝統と革新を融合させた『肉の桃源郷』が存在している。
店内はカウンターとテーブル席があるができることならカウンターに陣取り、店主の伊藤さんの手際の良い仕事振りを目の前で楽しむことをオススメしたい。
割烹らしく丁寧な仕込みをされた素材がお皿の上で芸術品に変貌していく様に嫌でもテンションが上がってしまうだろう。
和食の世界を覗いてみると魚に比べて肉へのアプローチはかなり限定的なようだが、伊藤さんの手から生み出される肉料理はどれもしっかりした和食のテクニックを踏襲しながら食べ手の予期せぬサプライズが織り込まれている。
例えば、タンの昆布締めはタンの水分が昆布に吸われ身が締まり昆布の旨みが見事に乗せられている上に、香りが際立つ温度まで絶妙な仕上がり。
脂の乗ったタン元は西京漬けで和を強調し、シャトーブリアンはフォアグラと合わせて洋も感じさせてくれる。
その発想に驚かされたのが、牛肉が入ってないのに牛肉が感じられる海老芋のコロッケで、なんと自家製のヘッド(牛脂)で揚げて牛肉の風味を乗せているのだ。
まさに牛肉を扱わせたら日本最高の職人さんではないだろうか。
このお店を訪れるためだけに新幹線で京都に向かう価値がある。
★★【一度でも食べれば完全にお店の虜になってしまう】
[哥利歐]
東京の"あら皮"の系列店で、もちろん仕入れの精肉店も同じ。
ただし"哥利歐"では"あら皮"に比べ同じ生産者でもよりサシが少ない個体を好んで仕入れている。
メインはやはりサーロインとヒレだが、運が良ければイチボやランプを食べることもできる。
これらの部位はロースに比べて小さな部位なので、無くなるのも早い。
だが、せっかく"哥利歐"を訪れるのであれば、一番のオススメはやはり肉質・脂質の差が最も出やすいサーロインだ。
あえて冷ます必要はないが、仮にサーロインが冷めてしまった場合でも、脂のしつこさなど皆無で赤身の旨みがしっかりと感じられるだろう。
これらは三田の生産者のこだわりの結晶と言える。
[横浜うかい亭]
ステーキを食べれば食べるほど、炭火で焼き上げるステーキの凄みが身にしみる。
そんな中、唯一炭火焼きステーキ以外で感服させられたのが"うかい亭"の鉄板焼き。
鳥取の田村さんの肉を中心に極上の素材が常に揃っている。
また10年以上お世話になっている"うかい亭"だが、数々の焼き手の中でも小池さんは別格と感じてしまう。
毎日味見して焼き加減を調整しているのだろうが、鉄板の上のお肉を一体化しているのかと思わせる焼き加減。
鉄板焼きのステーキの真髄がここにある。
[くいしんぼー山中]
店主の山中さんが冷蔵庫から取り出す肉塊を見ると、それが世間一般で食べれるものと明らかに違うことに気付くだろう。
肉の断面は空気に触れることで鮮やかな色合いに変化するのは承知しているが、それを考慮しても今まで見たこともないような深い小豆色の肉肌なのだ。
そして本来であれば判の大きなリブロースであっても、惚れ惚れするような判の小ささ。
これらは美方産を中心とした純但馬の血統、雌、平均37ヵ月ほどの月齢、飼料、環境、そして匠といえる生産者の結晶で、近江の契約牧場からしか仕入れられないと山中さんはおっしゃっている。
肉へのこだわりを語りながら手際よくこの類稀な肉を捌いていく山中さんの顔はこれ以上ない肉好きの顔をしている。
そしてその肉は決してサシの蕩けるような食感ではなく、黒毛和牛だからこその繊細な赤身の食感にどこまでも広がり続ける深い味わいがある。
また「肉は新鮮なほど良い」という山中さん持論により、肉はどれもフレッシュ。
屠畜後すぐに自ら取りに行くという肉は他ではなかなかお目にかかれないだろうし、屠畜の2日後だというヒレの甘みは忘れられない。
胡椒が強めのステーキはロースもヒレも秀逸だがロースの方がより肉の凄さが分かるかもしれない。
またビフカツの中でもデミソースとの一体感が素晴らしいヒレカツや私が考える日本一のハンバーグも外せない。
とにかく"くいしんぼー山中"で非日常の牛肉をとことん食べみて欲しい。
間違いなく今までの牛肉観が変わるはずだ。
★【自分だけでこの感動を味わっていいのだろうか】
[ひらやま]
祇園に本店のある"ゆたか"の東京支店は銀座にある。
数年前に八重洲から現在の銀座に移転したのだが、八重洲時代に料理長を勤めていた平山さんが当時のスタッフを連れて独立したのが"ひらやま"だ。
ちなみに平山さんは若い頃に、当時まだ"ゆたか"にいた"かわむら"の河村さんの下で働いていたそうだ。
"ゆたか"系の流れを汲んで厚切りのヒレをメインにしたスタイル。
焼き台は炉釜や鉄板ではなく、"かわむら"のようにロースターで、高さ調整ができるようになっている。
ただ、炭とお肉の距離が十分に取れているため、火入れは高さではなくお肉を置く位置で熱量を調整しているようだ。
焼き上がりは"ゆたか"や"かわむら"のように繊細さを追求したスタイルで、食感だけでなく喉越しまで楽しめる。
当然、お肉自体は最高の物を揃えている。
[島]
河村さん同様に"ゆたか"出身の大島さんの世界が広がる"島"。
"ゆたか"系であるのでヒレの旨さは言わずもがなだが、この"島"の特徴はロースが飛び切り旨いことだろう。
雌の但馬牛の分厚いロースステーキは必食の価値がある。
いつ行っても最高のステーキが味わえるのは勿論だが、このお店の凄さはそれだけではない。
"ゆたか"と比べると圧倒的に手頃な値段、そして優しい笑顔でリラックスしてお肉に集中できる居心地の良い空間。
行きつけにしたいステーキ屋さんNo.1だ。
[藤田]
八重洲にあるステーキの名店"島"。
その"島"から独立したのが今回訪れた"藤田"だ。
築地市場からほど近く、決して人通りが多いとは言えないような場所に目立った看板もなく、ひっそりと"藤田"は佇んでいる。
知っている者だけがその扉を開ければ良いということなのだろう。
メニューは基本的に店主のお任せのみで、ステーキの前に様々な料理が出てくる。
メインのステーキは"ゆたか"の流れが残っているのか、やはりヒレがメインで、熱源が電気の窯でじっくりと温めるように火入れをし仕上げに炭火の上で炙られる。
その食感はプルプルとしていて、どこまでも繊細な仕上がり。
最後に炭火で炙った表面が食感にメリハリを絶妙につけてくれる。
[平]
場末のスナックを彷彿させる店内からは、ここで極上のステーキが食べれるとは想像もできない。
しかし、そこで出されるお肉は、都内の高級店であれば倍以上もするような極上品ばかり。
それを目崎さんが炭火で焼き上げてくれるのだ。
運が良ければ、川岸牧場のお肉に出会える日もある。
[福多亭]
まだオープン間もない窯焼きステーキのお店だが、料理長の福田さんは元フレンチのシェフで、この"福多亭"オープン前は"あら皮"や"かわむら"等のステーキの名店を回って勉強したそうだ。
炉窯で焼かれるステーキは備長炭から発せられる高熱で焼かれ、福田さんによって時に炉釜から出して休ませる。
この工程を2度、3度と繰り返し、分厚いステーキにじわじわと火をいれていくのだ。
中まで火が入ったシャトーブリアンは丸みを帯びていて、内部に満ちている肉汁の想像させる。
大阪で炉窯のステーキを食べるなら、迷わず向かうべきお店であることは間違いない。
[れんらく船]
湯島の"平"以来、久しぶりにステーキ業界のカオスに遭遇した。
お店の名前は"れんらく船"。
入船口と書かれたお店の入り口からして既に異彩を放っているのだが、一歩店内に入るとそこは異次元の世界。
とはいえ、よくよく店内を眺めると異彩を放っているが、なんともバランスの取れた絶妙な雰囲気をかもし出している。
"れんらく船"はヒレを中心とした肉料理のお店。
定番のステーキに始まり、網焼きや唐揚げ、てり焼きまである。
しかも牛肉は近江牛に拘っていて、伺った日は去勢であったが、普段は雌を中心に仕入れているとのこと。
ヒレの唐揚げは"れんらく船"では王道のメニューで、見た目はチキンナゲットのような姿の唐揚げが運ばれてきた。
衣に完全に閉じ込められた旨みは爆発的で、衣の味わいがヒレの気取った雰囲気を良い意味でぶち壊してくれる。
とにかく京都を訪れた際にはぜひ乗船してみるべきだ。
[一富士]
関東は関西に比べて肉割烹系のお店が少ない。
そんな関東で貴重な牛ホルモンに特化したお店が"一富士"だ。
場所は千駄木駅から徒歩数分という場所で、あまり便利とは言えないが、一度その世界を体験したのであれば、距離など全く気にならないほどの肉料理の数々に味わえる。
コースの中のメニューはどれも秀逸だが、串に刺したレバにニラが乗せられたレバニラや一度煮込んでから焼き上げるテール焼きも特にオススメ。