No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

焼ニシュラン -2017- (続き)

☆【自分だけでこの感動を味わっていいのだろうか】
[USHIGORO S]
2017年に”うしごろ西麻布”の地下にオープンしたのが”USHIGORO S”。
今までの”うしごろ”よりも高級路線で、田村牛や川岸牧場の神戸ビーフといったハイエンドの牛肉を仕入れている。
また、全てのテーブルが個室で、それぞれの個室に専属の焼き手がつくので、焼肉マニア以外でも最高の状態で楽しむことが出来る。
素材や焼き方以外にも、肉割烹を彷彿させる肉料理もコースに盛り込まれているので、飽きずに最後まで楽しむことが出来るだろう。
コースの値段が14,000円からなので、絶対的な金額としては安くはないが、扱っている素材や全テーブル個室で焼き手が付くことを考えると驚くほど安い。
唯一の難点を挙げれば、オリジナリティが際立ったメニューが少なく、食べ込んでいるマニアには訪れる度に楽しみたい期待感が若干弱いのかもしれない。
この点がクリアされれば☆☆は確実と言えるほどに、メニューのクオリティは全て高い。

[炭火焼肉 ふちおか]
2017年新人王は間違いなくこの”ふちおか”。
オープン間もないながら細部にわたるクオリティが素晴らしく高い。
"くにもと"から独立した"かねこ"の様に、今回"なかはら"から独立した"ふちおか"も職人の元でしっかりと修行を積んだ強みがいたるところに出ている。
“なかはら”仕込みの拘りは細部まで行き届き、仕入れる牛肉、部位ごとに変化するカットもすでに東京焼肉界の上位に位置する。
次は『守破離』の精神が試されるだろう。
これからどこまで突き抜けてしまうのか。
通いながら側で見続けたい。

[金竜山]
焼肉界の最高峰と称される名店。
雪山登頂に例えられるほど見事な霜降りが名物で、カルビ→中カルビ→上カルビ→特上カルビと標高が上がれば上がるほど雪が険しく深くなる。
そして頂上付近の特上ロースのサシはまさにパウダースノーの如し。
部位ごとのメニュー表示が主流となった現在でも“金竜山”の正肉はカルビ(並、中、上、特上)とロース(並、特上)のままなのも潔い。
ただしカルビと言ってもバラはあまり使われておらず、サーロインやザブトンなど、サシの入り具合でその都度提供される部位が変わる。
“金竜山”の魅力は、この見た目の美しい肉だけではない。
むしろ、肉の味を感じ取ろうと舌に意識を集中させれば、肉の味はあまりなく脂の重さに気付くだろう。
おそらく去勢メインであると思われるが、白米片手に勢いよく食べる分にはそんな事は一切に気にならない。
ニンニクが効いて脂の重さを感じせない魔法のタレの旨さは尋常ではなく、これこそが”金竜山”の命と言っても過言ではない。
また、今ではあまり見かけなくなったノスタルジックな雰囲気とぶっきらぼうながら実は優しいおばちゃんといった要素も、焼肉だからこそ逆に喜んで受け入れられるのだろう。
かつては月一で通っていたが、現在は予約が取りにくくなる一方でついつい間隔が開いてしまうのだが、やはり半年に1度くらいはおばちゃんの笑顔を見ながら登頂に臨みたいものだ。

[鯉登り]
JR大久保駅の改札を出て線路沿いを歩くこと5分。
余所者には少し緊張感のある路地を抜けると、そこにはホルモンパラダイスがある。
その日に使い切る分だけを毎日仕入れるホルモンは、掃除を業者任せにせず、お店で丁寧に時間をかけて仕込んでいく。
運ばれてきたホルモンの色艶を見れば、それが他とは違うことが一目瞭然。
どれも臭みなど一切なく、それぞれの食感が口の中で弾ける旨さ。
ホルモンにかけられた塩ダレはねっとりとしていて、他では見かけない不思議な魔力を秘めている。
値段に関しても一部では高いと聞いたことがあるが、かけている手間暇を考えれば決して高くない。
また場所柄なのか、様々なご職業っぽい方もお見かけするので、無駄な大騒ぎをせず、旨いホルモンに意識を集中して満喫することを勧めたい。
(写真撮影は禁止)
[三宿トラジ]
現在は祐天寺にあるが、移転前は三宿にあったことから店名には今でも「三宿」が付いている。
チェーン店の”トラジ”とは全く関係なく、主役である焼肉が旨いのはもちろん、本格的な韓国料理が並ぶサイドメニューはオーダー必須のものが多い。
とは言え、この”三宿トラジ”をここまで有名にしたのはハラミの旨さであることは間違いない。
内ハラミ焼きと呼ばれる所謂サガリ、トラジ焼きと呼ばれる所謂ハラミがとにかく素晴らしい。
贅沢に厚切りにされたサガリやハラミからは肉汁が溢れ、噛むほどに旨みが歯茎に伝わってくる。
このサガリとハラミを食べる為だけでも、”三宿トラジ”を訪れる価値があるだろう。

[虎の穴]
東京でホルモンを食べるなら”ゆうじ”と並ぶのが”虎の穴”。
ホルモンの鮮度は勿論、丁寧なカットや味付けで他を寄せ付けない。
またホルモンの火入れは店主・辛さん(兄)の兄弟である辛さん(弟)に並ぶ者はいないかもしれない。
火を入れることで素材に眠った旨みや食感を最大限引き出そうとするそのスタイルは、ホルモン道を極めんとする"虎の穴"らしいもの。
そして、焼肉業界の伝説となっているハラミ。
積み重ねられた経験と知識、そしてホルモンにかける強烈な思い。
流行の焼肉屋さんやホルモン屋さんに行き尽くした人こそ、"虎の穴"へ帰ってみて欲しい。
ただし、ホルモンの火入れを極めし辛さん(弟)が2015年夏に”虎の穴”を離れてしまい、あの匠の火入れで食べることが出来なくなってしまった。
あの火入れが”虎の穴”に帰ってきた時、再び☆☆へ返り咲くだろう。

[冨味屋]
細い路地裏に所狭しと焼肉屋が軒を連ねる浅草の『焼肉横丁』。
どのお店もこじんまりとしていて、お世辞もオシャレな外観のお店は皆無。
店内では子供たちが宿題をしていたりテレビを観ていたりするお店もあり、昭和にタイムスリップしたかのような感覚を覚える。
そんな激戦区で圧倒的に評価の高いのが”冨味屋”。
肉は切り置きなど一切せず、注文が入ってから1枚1枚手切り、焼肉屋の命であるタレがまた旨い。
派手なパフォーマンスはないが、誠実な仕事ぶりに余計心が惹かれる。
ちなみに、ここは”カルネヤ”の高山さんのご実家でもある。

[好楽園]
南武線
都内在住の方には縁がないだろうが、横浜市に長く住んでいた身としてはめちゃ親近感がわく路線だ。
焼肉好きという視点から見れば南武線は“北京”のテリトリー。
そう、食べ終わる頃には化調で舌が痺れるというあの名店だ。
そんな南武線の矢向にとんでもない焼肉屋が存在した。
50年以上営業しているというお店はお世辞にもキレイとは言えない。
しかし注文したお肉を食べるとその素晴らしさに頭の中が真っ白になる。
お肉もホルモンも冷凍は一切なしで注文が入ってから1枚1枚手切りされる。
最初の1口目はあまりのニンニクの強さに目が覚めるタレだが、2口目からはその旨さの虜になっている。
今まで積み上げてきた私の焼きを全否定するおばちゃんの焼きは必見w
おばちゃんは、焼いた後は食事中の我々の隣で一服し出す破天荒さも持つ。
しかしあまりの焼肉の旨さに、おばちゃんの接客は心地よいスパイスにしか感じられない。
腹一杯食べて1人5000円というのも奇跡。
こんなに素晴らしい焼肉屋があったことを知らなかったなんて。
位置付けとしては神奈川の“金竜山”と言っても過言ではない。

[みつる]
ある程度良い牛肉を仕入れることで満足しカットやタレの研究を疎かにしたり、流行の創作系だけに頼りきった焼肉屋が散見される中で、仕入れにもしっかりと拘りながら、仕入れた素材を丁寧に扱い、仕込み、しっかりと旨いタレで食べさせてくれる焼肉は意外に少ない。
しかし、食べて心に刺さるのはそういった焼肉屋だ。
“みつる”という焼肉屋はいくつかあるようだが、今回は石橋の”みつる”。
まさに心に刺さる焼肉屋
気取った雰囲気は一切なく、気さくで話好きの店主が笑顔で迎えてくれる。
オススメを聞けば、店主が良さげなところを見繕ってくれるという。
都内では滅多に仕入れできないような生の黒タンは無造作に出されたり、鮮度抜群のホルモンが取り揃えられている。
そして店主の仕事。
手際の良く肉をカットし、素材にあわせたタレの旨さも秀逸。
これほどの名店を知らなかった自分が恥ずかしい。
そしてまだまだこういった名店があることが嬉しい。

[かっぱ梶岡]
まず雰囲気が良い。
住宅街の路地の奥に佇むお店から滲み出る雰囲気が「ここは旨い」と言っている。
店内に入った時の大将と女将さんの笑顔も良い。
旨い焼肉を食べさせるお店に共通する素敵な笑顔だ。
注文時には、大将や女将さんに相談すれば、丁寧にオススメを教えてくれる。
塩タンを頼めば、大将は無造作に皮付きの生の黒タンを捌きだす。
その根元の極上部分だけを我々の為に切ってくれる。
お皿に盛られたタンの根元は脂が乗って艶やか。
好みの厚さよりも若干薄いカットだが、そこから感じられる甘みとサクサクの歯切れが、素材の素晴らしさを教えてくれる。
鮮度の良さを物語るように、ミノは透き通るようなピンク色。
ニンニクとオリーブオイルという味付けからは、お店のオリジナリティがしっかりと感じ取れる。
厨房から大将が見せてくれたハラミは厚みがあり、サシの入り具合も申し分ない。
ほど良い厚さのおかげで、噛み締めれば肉汁が溢れ、タレと見事なマリアージュをみせる。
大将が信頼関係で仕入れてくる内臓類は抜群で、味付けのオリジナリティも嬉しい。
早めに入店すれば、これから捌く素材を見ながら食べるという楽しみもある。

[肉料理 荒川]
お店の前に到着した時点でオーラを感じる。
店内に入れば、コの字カウンターの中から店主が出迎えてくれるが、その雰囲気がヤバイ。
間違いなく旨い。
逸る気持ちを必死に抑え、店主に相談しながらオーダーをして欲しい。
タタキに始まり、続いて上レバー。
刺身盛り合わせはタン元、イチボ、白センマイ、ハツ、アキレス。
どれも抜群の鮮度で瑞々しさが光る。
厚切りにされたタンステーキのよう。
ハラミも抜群に旨い。
残念ながら写真撮影禁止の為、あの艶やかなホルモンを残せないのは悲しい。
しかし、素晴らしい。
本当に素晴らしい。
味はもちろん、雰囲気、店主の立ち振る舞い、その全てに魅了される。
今回は訳あってちょっとしか食べれなかったが、次回は腰を据えてじっくりと食べ込まなくてはならない。
(写真撮影は禁止)
[多平]
人通りもまばらな路地裏に1軒の焼肉屋がたたずんでいる。
11時30分の開店と共に馴染みのお客が入り、各々がいつものお気に入りのメニューを注文し、さっと食べてお店を後にする。
お客は皆、鼻息荒く意気込んでやってくるというより、肩肘張らずに日常の行為として焼肉を楽しんでいる。
そんな”多平”の店主の仕事は生真面目の一言に尽きる。
注文が入るたびに冷蔵庫から取りだした肉を切り、その都度タレに絡める。
何よりそのタレが異常に旨い。
ド派手なインパクトはないのだが、肉の味を後押しするようにグングン舌を押し付ける旨さがある。
こういったタレの旨さからも”多平”の実力が感じられる。